「何かといや小言ぶつくさほざきやがって!こちとら忙しいってのにしかも制服!引っ掴んで引き摺るとか有り得ねぇだろ!」

夕刻のアンダーワールド。
流しているBGMもカウンターに座る人物のせいで何も聞こえない。目の前でレイは先程からグラスを拭きつつ相槌を打っている。ウォールローゼ学園の制服を着た人物はチラとレイを一瞥すると今度は自分の隣に座っているミケを睨み付ける。

「アイツの首すっ飛ばしてくんない?」
「そんな事したら俺の首がすっ飛ぶ」
「平気だって、イーターと間違えちゃいましたー的な感じでさ!」
「お前が原因だろう」
「はぁ!?レイ!このデカヒゲに何か言えよ理解がなさすぎる!」
「そうだねぇ」

親子の歳ほどに離れたこの2人。
放課後は大抵ここに入り浸ってるこの子がお礼として店の掃除をしてくれてる時にミケが来たこと…だったっけ、確か。それであまりの背の高さに「何このデカイの!レイの知り合い!?」って驚いて何故かそこからミケに懐いてる。あとご飯奢らせてる。

さっきから何をこんなに怒ってるかって?今日もうるさく担任に説教されて腹が立ってるみたい。とにかくキレやすい性格で素行悪いのは当たり前、暴力沙汰を起こした回数は数知れず。でも自分は悪くない、吹っ掛けてきた相手が悪いおまけに1人相手に散々やられてバカみてぇザマァ。とまで言うもんだから先生方は大変だ。そもそも問題児っていう自覚が1ミクロンもないからなこの子。どうやら担任とミケは知り合いみたいでちょくちょく悩みを聞いてるらしい。だから初めてこの子に会った時も「コイツが噂の」ってポソッ言ってたのか。なるほど。でも俺はこの子嫌いじゃない。話してて反応が面白いし思ってる事を口にしてるだけだから。素直だと思う。

「逆転の発想で」
「ん」
「今度謝ってみるのは?」
「なんで」
「ポカンとした先生の面白い顔見れるかもよ?」
「はぁ!?そんな事の為に謝るわけ?じゃあレイが謝ってよ代わりに」
「俺が?いいけど」
「レイのバカ!」
「食べてる時くらい静かにしてくれ」
「うっせ!こっちはもう食い終わってっから!」

空いた皿を持って我が物顔でキッチンに入ってくるのも見慣れたもの。ほら、食べ終わったらちゃんと皿洗ってくれるしミケにコーヒーのお代わり入れてあげてるしいい子なんだよ。

「サシャ達来たんだって?」
「うん」
「ケーキだのレイからレシピ貰っただの言ってたから」
「来れば良かったのに」
「誘われたけど飯食う約束してた」
「そっか」
「そーいうこと。てか一緒に飯食うと必ず『先輩の好物は理解しかねます!』とか言うの!」

同じウォールローゼ学園の後輩であるサシャ達と仲が良いのかよく遊んでるみたい。それに3人、あとクリスタの双子の姉もいれて4人でこの店にもよく来てくれてる。好物?何それってこの前興味本位で聞いたけど俺からしたら全く理解出来ない話だったので途中でギブアップした。意味が分からない。アレは焼肉の話?だったのか?多分そうだと思う。

食べ終えたミケから皿をもらい洗う。店と2階の家以外に近所のフードマーケットくらいしか行き来しないから、誰かが来てくれてどんなに俺と関係ない事であっても話せるのは楽しい。コーヒーメーカーをセットする後ろで相変わらずミケに詰め寄って言い合いしてる。俺がこの子と同じくらいの時は何してたかな?

「レイ!」
「はいはい」
「今度みんなでメシ行こうよ」
「お、賛成」
「ミケの奢り!」
「駅近くの大きい本屋の隣にある店がすごい美味しいんだって、高いけど」
「俺を見ながら言うな」
「学生なんだか「やっぱり此処にいやがったか!!!」

バーーーン!!の豪快な音と共に1人の男が入って来た。その反動で看板がクルリとOPENからCLOSEに変わる。ワイシャツにネクタイどう見てもスーツ。

「はぁ!?なんでうすらヒゲ!!」
「ナイル、まだ開店中だ」
「おぉ悪い」
「どうぞ」

律儀に看板を直すとズカズカとこちらにやって来た。そう、ナイル先生はこの子の担任。むんずと首根っこ引っ掴んで立たせようと上に引っ張る。説教途中で逃げ出したらしくここまで遠路はるばる追い掛けてきたそう。ってこの光景見るの何度目だろう。

「引っ張んなコラ!」
「毎度毎度テメェは!戻んぞ」
「やぁーーだ!」
「こちとら採点する時間削ってんだからな!」
「知らねー知らねー」

俺とミケが間に入る事でもないのでコーヒー飲みながらのんびり眺める。一応火の粉被っても困るからどっちもナイル先生に告げ口はしてないからねと伝えておいた。それで最終的にサシャが告げ口犯と何故か勝手に決め付けられるいつものオチ。ほら誰も言ってないのに「レイ達じゃなきゃサシャか!?そうなんだなアイツ締める!」って怒ってる。
テコでも動かないと判断したのか手を離し隣に座る教師と、まるで反省感なく頬杖つきながら話を聞く生徒。

「話聞く時の態度!いつも言ってんだろ!」
「耳はそっち向いてるし」
「ほんっっっとにお前…!」
「先生さぁ!」


「あんまりうるさいと喰っちゃうよ?」


「教師の胸ぐら掴むんじゃねぇ」
「あでっ!離せヒゲ!!おい!」
「邪魔したなレイ、また来るわ」
「今度はマリーさんとお子さんといらしてください」
「あぁ、それじゃ」
「ミケもレイもだいっっっきらいだぁ…!!」

スパン!イイ音が鳴る。そしてズリズリ首根っこ引き摺る音と離せの声。ナイル先生が猛獣使いに見えた。店出たのにまだ遠巻きに聞こえる。きっと学校帰って怒り直しで確定だろう。俺は好きだからねー、ミケ以外誰もいなくなった店。BGM付けたんだって思い出す。

「食べるだって、イーターみたいな事言っちゃって」
「噛み付くくらいはしそうだな」
「ねぇ、例えば俺がイーターだったとしたら此処には来ないよ」
「それは?」

問い掛けるミケにレイは悪戯に笑った。

「だってこんな辺鄙な所まで来て居たのが30代のおっさんだったら食欲失せるでしょう?」


【憤怒 ナナバ】
SDSの1人、ランクSS
ウォールローゼ学園高等部3年。腕と目玉が大好物のサシャの『先輩』部位の好みでいつも彼女と揉めてはいるが仲は良い。非常に短気で尚且つ口も悪く、捕食する事なく腹いせの為だけに殺す事も多い。高等部で一、二を争う成績優秀者であると同時に学園で一、二を争う問題児。ファミリーネームは知られていないが指折りの資産家一家の産まれという噂。口癖は「はぁ!?」アンダーワールドによくいるせいかアルバイトと思われている。

- ナノ -