イーターを抹殺する組織『調査兵団』
その傘下に置かれている訓練兵団で3年間訓練を受けた後エレンの幼馴染み、ミカサとアルミンが配属されたのは調査兵団特等捜査官のミケ・ザカリアスの班。噂通り人の匂いを嗅いで鼻で笑われる洗礼を受けた瞬間は配属先を土下座してまでも変えてもらいたいと思っていたが、日が少しずつ経っていけばそんな洗礼を受けた事などただのいい思い出になっていた。
リヴァイと同等の実力を持つミケは特等捜査官でありながら何故か分隊長というあだ名で部下から呼ばれている。196cmの大柄な体格ながらもやはり鍛えられた歴戦の捜査官は違うものでスピードもパワーもあるオールラウンダー、ひとたび戦場に出れば捻り潰すかの如くイーター達を抹殺していくがあくまでそれは調査兵団外での話。普段はのそのそと動く森のくまさんの様な人物だった。

『分隊長、報告書です』
『あぁ』
『分隊長』
『聞いてる』
『明後日の方向を向いてます』

言葉少なだがしっかり者のミカサはこうしてサボリ癖のあるミケを補佐官の様に支える(という名の世話係)に近い事を毎日こなしていた。テキパキ。さすが訓練兵団を首席で卒業しただけの事はある。リヴァイ班は居心地悪い、って全部リヴァイのせいなんだけどね!お茶は上手いし茶菓子も美味いし〜ミケ班は何か森に来た感じで和むわぁ〜。何日も洗われていない白衣を身にまとった研究所主任が来室した際に言っていた。リヴァイ班…確かにすごいと思う。エレンの上司のチビもすごいのだろうけど分隊長の方がすごい。ミカサはそう思っていた。

「こちらミケ班…はい…お待ち下さい」

アルミンが受話器を置き話しかける。

「分隊長、リヴァイさんからです。3番で」
「あぁ。…どうした」

置かれた電話のボタン3を押しつつ受話器を上げる。向こうから聞こえてきたのは長年の戦友ともあろう声。ミケはミカサを手招きで呼びいつでも出れるように準備をしておけしてとのジェスチャーをした。頷くミカサを筆頭に各々が準備を始めていく。あの森のくまさんだった分隊長はもういない。一瞬にして特等捜査官の顔になっていた。

『立て続けに殺られた』
「現状は」
『被害者2人、身元は調べてる。おまけに綺麗に腕と目玉だけは食わずに残していきやがった』
「了解、お前達と合流する」

*

「うっ…ひどい…!」
「アルミン、無理しないで」
「う、うん…大丈夫…」

数十分後、先に現場に着いていたリヴァイ班と合流する。部下たちを周りの警戒へと行かせリヴァイとミケは現場を捜索し始めた。現場はウォールローゼ学園近くの大きな公園。目玉4つと腕4本は無造作にゴミ箱の中へと捨てられている。元の死体はそれ以外残っているものはなく皮や骨の一つ、髪の毛一本すらもなかったが、足元に溜まる大きな赤い血の海はここでイーターに捕食されたと物語っている。自分達のいた証拠すら一切残さない、しかし獲物に対しての執着心は普通のイーター達とは比べ物にならない程強い。

「間違いねぇな、『暴食』だ」
「兵長、近隣まで偵察しましたがイーターはいませんでした」
「こちらもです」
「こんだけ集まってて殺されに出てくるヤツもいねぇか」
「(スンスン)?」
「あの、あの…っ!調査兵団の方ですよね…?!」

匂いを嗅いでいると突然慌てて声をかけてきた女。もしかしたら事件の事を知ってるのだろうか。参考人ならば保護しなければいけない決まりもあるし…と考えていたところでミケが部下2人を制した。

「お前達はここから動くな」
「分隊長?」

ポンと肩を叩き2人の元を離れ女の方へと歩み寄る。女は相変わらず興奮状態だ。リヴァイ達は行く末を黙って見ている。

「そうだが」
「はぁ…っ!だから、だか、」
「お前のランクはB…いや、Cの方が似合う」
「!や…めろやめろやめろやめて」

ゴキッ!ベキ…!ポキ…ッ

「ア゛あああぁあぁ!!!」
「……一瞬でイーターって…分かったって、こと…?」

ミケは女の頭を片手で掴むと軽く捻るようにして首元から根こそぎ骨を折っていった。その手を離せばズルりと地面に倒れ込む。息などとっくに切れていたらしい。鼻から伝うその血は人間から出る血よりも赤黒い色をしていた。つまり女はイーターだったのだ。あの興奮は恐らく空腹の限界だったのだろう。そうなると特等捜査官だろうが見境無く襲う生き物だから。この馬鹿は何をしたかったんだ汚ぇとリヴァイが屍を蹴る。それ以降は解散となり各班本部へと帰っていくのだった。

帰ってきて早々のそのそといつもの椅子に座る。そして運ばれてくるお茶と茶菓子。ミカサ達のミケへ対する労いでもある。何だかんだで優しい分隊長は部下から好かれているのだから。

「なぜ女性がイーターだと?」
「見れば分かる」
「あの…SDSって、そんなに凄いんですか?」

訓練兵団でも何度も聞いた名前だし十分分かってはいるんだけど。

「ケタ違いの強さだ」
「やっぱり…」
「雑魚と違って自分達の面割れを徹底的に防いでいる」
「情報がほとんどないんですよね」
「あぁ。だが遭遇した場合はとにかく逃げろ、今のお前達がアルマを持ってしても勝てない相手だ」
「分隊長なら勝てますか?」

素朴な疑問。しばらくの沈黙。

「負けるかもしれない」
「負けません」
「えーっと…ミカサ?」
「分隊長は誰よりも強い。だから負けない」
「そうか…褒められると悪い気はしないな」
「分隊長は強い」

とある任務の時に自分の失態のせいでミケに迷惑をかけたことを今でもミカサは後悔している。
だから私はもっと強くなって分隊長を支える、そしてイーターを倒し尽くしてやる。
少女の瞳は決意に満ち溢れていた。

「それで分隊長」
「なんだ」
「研究所に提出予定の報告書は」
「どこかへ飛んでいった」
「1時間後に提出してください」
「あぁ」
「分隊長」
「聞いてる」
「明後日の方向を向いてます」


【SDS】
Seven Deadly Sinsの略称であり訳は七つの大罪。大量の殺人や捕食を犯してきた調査兵団が最も危険視するS〜SSS+ランクの7人のイーター達の総称。戦闘能力は並のイーターの比ではない。
それぞれ七つの大罪にちなんで「暴食」「色欲」「強欲」「憤怒」「怠惰」「傲慢」「嫉妬」の名を付けられているものの、その他彼等に関する情報は一切得られていない。中には好みの食べ方がある者もいるらしいが…。

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