この世界には人間の姿でありながら人間を捕食する異形の者が存在する。
血も涙もないそれらは己の欲するがままに人肉を喰らってきた。
見えない恐怖はすぐ隣で笑っている。

「汚ぇな畜生」

袖口で拭ったところで落ちやしないどす黒く染まった赤い血。これはもう着れない、いや着たくもないし見たくもない。何回目の支給になるやら。男は倒れる屍を八つ当たり気味に蹴り飛ばすと歩きながら耳元を手で抑えた。誰かと連絡を取っているらしい。

「今から戻る。あぁ、雑魚だった。あ?足りねぇ頭使って考えろ。奴等ならこんなヘマしねぇよ」

次第に近づいてくる不穏な影。
男は気付いていない。

「あと新しいジャケットを手配しておけ、今日中にだ。切るぞ」

そして男は暗闇に向かって引き金を引いた。
一丁の銃から放たれた鈍い銃声と共に断末魔が響き渡る。
人間でありながら人間でない異形。

「隠れるならもっと上手くやれクソ野郎」

ここは帝国ウォールローゼ。
これは人を喰う異形とそれに対抗する者達の話である。


【帝国ウォールローゼ】
全人類が住まう惑星の別称。第1区は帝国内の警察業務及び異形抹殺、研究等の治安全権を担う調査兵団がある。第2区は商業区、第3区は国民達が住む居住区、第4区は唯一のエスカレーター式の学校ウォールローゼ学園の学業区と帝国内は区で別れている。

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