天気がいい日は心が締め付けられる。
太陽の下なんて誰が似合うだろう。
でも此処は、天気も時間も誰が何をしているかさえも関係がない場所。
立ち入れない場所。
すべてを受け入れてくれる場所だと思う。
木製の長椅子が等間隔に並べられ、辺りを囲むステンドグラスが外の天気を反射しているが中は薄暗い。そして正面の十字架を守るようにして蝋燭が何本も。

今この時間はレイしかいない。
数十秒前まで老婆が1人いたが2、3言葉を交わし帰っていった。定期的に此処へ来ているが不思議なくらいにこの時間に来ると誰とも会わない。会っても1人。此処の大きさからして常に人が居てもいいと思えるが。それこそレイが住んでる世界と他の人間が住んでる世界ではリズムやら、そもそも根本的な何やらが違うのだろう。

「…」

長椅子から立ち上がり足を進める。
憂いを帯びたようで、それでいて全てを拭い去ってくれるような優しさの。
その目の前で手を組み膝を付いた。

「私をお許しください」

罪にまみれた私を。

「お許しください。そして、」

天国に行けるなどとは思っていない。
地獄に落ちるべき存在なのは百も承知。
そうであっても。
ただ、曇り無き未来がありますよう。
ただ、守られていますよう。
ただ、あたたかさに包まれますよう。
ただ、安寧の時が訪れますよう。
どんな事においても、それだけはあなたの御名の元約束されますよう。

「レイ」

手を付き立ち上がると誰かが声を掛けてきた。年齢は不詳。此処のシスターだ。それは長いこと付き合いがある。育った場所ではないが、彼女も大切な人だった。

「シスターに渡しました」
「良いのですよ。あなたはそこま「そこまでの事を…私はしましたから」
「…そう…とやかく言うべきではありませんね。もう行かれるのですか?」
「はい。さようならシスター、また来ます」
「レイ…本当にいいの?今なら、」

本当にいいの?今なら。
それが何を意味するか分かっている。
頷きを返した。

「はい、死ぬまで」


*


教会の外はたくさんの花に囲まれている。
私はそれを触らない。
前に触ったら手に付いた血が移って花びらを大いに穢してしまったから。それ以来見るだけで楽しんでいる。本当は見る事すら許されないのだろうけど。

辺りは民家が少しあるばかりで自然一色。教会は街からほんの僅かに離れた場所にある。ただレイはしばらく歩くと立ち止まった。

「付けるなんて趣味、あったのね」

何処からともなくリヴァイが現れた。
フード被ってないのね。こっちでは必要ねぇだろ。それで?今日は私を殺しに来たからここまで?殺しはさっきしてきた。

「お前に興味が湧いた」
「だから付けた?」
「それで気分を害したなら謝る」
「…意外、そんな気持ち持ち合わせてたんだ」
「あ?」

どうやら謝罪するのは本心だったらしい。気にしなくていいと返せば少し歩きましょうと提案した。リヴァイもレイも不思議と互いを警戒することはなかった。チラと隣を歩く彼女を見る。あまり見た事のない瞳が焼き付くように綺麗だった。

「毒や病気じゃ死なないの」

身体の中に何百もの抗体があるから。
リヴァイは黙って聞く事で先を促した。

「そんな私の特殊な身体に気付いた両親は蔑んだ。人間じゃないって」

来る日も来る日も打ち付けられる否定の言葉。産んだのが間違いだった。死ねだとか、思い返すだけでも時間がかかるくらい。

「だから殺した。本当に衝動的だった」

その後、行く宛もなく歩いていたらエルヴィンに会ったの。彼はあらゆる事を教えてくれた。あの教会も。

「なんで…あなたに話したんだろうね」
「さぁな」
「そういえばよく寝れた?」
「お陰様で。次は食わねぇぞ」
「ふふっ」
「今でも彼処に通ってる理由は?」

(やっぱり、何処かで前に、会ってる?)

「なんとなく、シスターにも会いたいし」
「本当の理由じゃねぇな。まぁ無理には聞かない」
「ねぇ」

憎い程の澄んだ青空。
心が締め付けられる。

「私を殺せって依頼があれば殺すよね?」
「殺して欲しいか?」
「質問を質問で返すのはやめて」
「ならお前はどうだ」
「…」

レイは口を開いた。
リヴァイに問われた答えを口から出す。
それが聞こえる事は無かった。
だって、なんだか風が強かったから。

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