「次回の壁外調査については以上だ」

調査兵団には男の兵士と女の兵士がいる。
圧倒的に男が多いがこうして女もいる。
分隊長であるレイ・ローゼンハイムは俺の恋人だ。それを知っているのはそういない。同じ班ではないものの『分隊長同士だからよく話してるのか』くらいにしか思われていない。ハンジとナナバからはほぼ毎日『ねぇミケ!昨日の夜はどうだった!?レイ可愛かった!?』等々の冷やかしを受けているが。

身体付きは細い。
俺と比べたら大抵そうなるがレイは女の中でも細い。立体機動に振り回されやしないか、そんな事はないが同期出身ながら今でも時折心配になる。綺麗な黒髪は寝る時以外はいつも1つに纏めていて…リヴァイとお揃い、なんて言っていた時には僅かながら嫉妬した。
何故かコンプレックスだという茶目。地面みたいな色をしてるから嫌なの。最初は意味が分からずそれでも好きだと言ったら知らない間に付き合っていた。互いに好きなことに変わりはな「そうだ、聞いて」

「どうした?」

柔らかい声が響く。
エルヴィンが伏せていた視線を上げ、その声にリヴァイやハンジも反応した。

「今日ね?ヒヨコを見たの」
「ん?」
「へ?ヒヨコ?」
「黄色い毛色がミケの髪の毛そっくりで…ふふっ、可愛かったな」

そう、レイは物凄く天然。
兵士としての戦闘能力は非常に高い。それは幹部である俺達も十二分に認めている。ただ天然だ。壁外調査の時であっても『見て!あの巨人、リヴァイみたいに目付きが悪い』『妹にするならソニーとビーンどっちがいい?私はソニーかな』
こんな事を普通にサラリと唐突に言う。

「そ、そうか」
「ミケがヒヨコだったらもっと可愛い」
「俺がヒヨコ」
「ぶっっは!アハハハハッ!」
「想像出来ねぇな」
「そう?大きくてふわふわしてて」
「ギャハハ!もはやヒヨコじゃないよそれ!ひー笑える!!」

好き勝手言ってる周りはさておき。
もう戻るとエルヴィンに告げレイの手を引き部屋を出た。頭何個分違うだろうか。名前を呼べば上を向いて…少し首を傾げてなに?という姿が可愛らしいと思う。

「この後は何も無いのか?」
「うん、やる事は終わってる」
「それなら、」

久しぶりに外へ出掛けるのは?


*


よく行くカフェ…と言ってもなかなか非番が取れないからかなり久しぶりになる。俺はいつもコーヒーだけ。レイは紅茶と焼き菓子。

「最後に来てからだいぶ経った?」
「あぁ」
「ねぇ本当に似てたんだから。ピヨピヨって言ってみて?」
「此処で言うわけないだろう」

じゃあ夜に言ってもらうからね。
くすくすと楽しそうに笑うレイが愛しいようなそれでいて言わせられるのかという複雑な気持ち、両方が出てきたので右手を伸ばし指先でほんの軽く頬を叩いてみた。

「嫌だった?」
「嬉しいと思う人間の方が少なくないか?」
「大好き」
「……堂々と」
「ミケは?」
「好きだ」
「ふふっ、じゃあレモンと同じ」

皮の色が俺の髪色と赫赫云々。
また唐突に。
それでも好きにさせて挙句の果てにはその話を一字一句逃さない様に聞いているのだから俺もレイに甘い。

「次の壁外でも変わった巨人がいたらスケッチしなきゃ」
「お前が?ハンジにやらせておけ」
「ハンジは何だかんだで描いてない、モブリットがいつも1人でやってるの。可哀想でしょ?」

モブリットの気苦労は痛い程知っている。

「だとしても俺が許可しな「心配しないで!ミケとナナバのペンも用意するから!」
「は?」
「みんなで描こう!」
「レイ」
「なに?」

花のように笑う笑顔。
これはしっかりと断らなければ本気でスケッチブックとペンを持った俺達が壁外調査で生まれることになる。だがどうにも断れない。そもそも悪気も何もないのだから、レイには。そして言われるのだナナバに。

「食べる?クッキー美味しいよ」
「もらう」
「はい、あーん」
「あ…、…美味いな」
「ミケと食べてるからね」
「…そうだな」

本当に!レイに甘過ぎ!!と。


*


夜はすぐにやって来る。
さすがに俺がレイの部屋に行くわけにはいかない。兵服ではない無防備な格好。動く度に髪がサラサラ動いて。両腕で彼女を抱き締めにおいを嗅ぐと一番好きなにおいがして安心する。モゾモゾと腕の中で動き向かい合わせになったレイが不意にキスしてくれた。

「好き?」
「大好きだ」
「愛してる?」
「それはもう」
「立体機動と私では?」
「どうしてそこでそうなる、レイとは何も比べられない」
「ありがとう」

また1つキス。離れる際にペロリと舌で舐められた。お返しに俺もキスをする。細いのに柔らかくて、それでいていいにおいがするのは何とも、反則のようにも感じた。
そのまま少し体重を後ろに掛ければ難なく倒れ込んできた。横になって話すか『その後のコト』だって楽に出来る。

「さて、いつまでお預けを喰らうのか」
「ピヨピヨって言ってくれたら」
「聞いてどうするんだ?」
「ダメ?恋人の特権かと思って」
「…」
「…」
「………ピヨピヨ」
「ふっ、ふふっ…あはは…っ!」
「レイ」
「だって…可愛いんだもの。猫より可愛い」
「…」

可愛い可愛い可愛いが頭を巡る。
196cmが可愛い、有り得ない。
余りにも連呼するから強く抱き締めた。そろそろこちらの要望を聞く時間だと。

「で?いつまで我慢すればいい…?」
「もう…しなくて、いいよ?」

互いにキス。始まる夜。

「ミケ猫みたい」
「名前がそうなだけだろ?」
「ううん、ミケは猫」
「レイが思うならそれでいい」

あぁどうしようもなく、好きだ。
このふわりと天然な彼女が。

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