「あはははッ!おもしろーい!」

陰陽師から名を貰い契約を結んだ妖怪の事を久遠では式神と呼ぶ。様々な妖怪がいるように、興味、服従、好意、感謝、怨念など契約に至るまでの経緯もこれまた様々だ。

「…」

主であるレイの長年の知り合い、エルヴィン、ミケにクソメガネ。勿論コイツ等にも式神がいる。だがそんな事はどうでもいい。またみんなで夕食を食べようという事で俺達の屋敷に集まったわけだが…早速ある妖怪の声がけたたましく響き渡っている。

「える!すごいの見て見て!」

布団、しかも俺の布団の上を占領して騒がしく跳ねる桃色の着物を着た黒髪の子供の妖怪。コイツがエルヴィンの式神の座敷童子。名前は『桜』

妖怪よりは福の神、また家の盛衰を司る守護霊として伝わってるが当の本人は自覚すらない。幼過ぎるが故に自分がどれ程の妖力を持っているかも分からないせいで、時折とんでもない術を簡単にやってのけたり怪奇現象を呼んだりと言わば未知数の存在。ヒトガタではなく本来の姿だが周りからはエルヴィンの娘と思われている。ちなみに何故契約を結んだのか。飴をくれたの。それがすごく嬉しかった!たったそれだけでらしい。良かったのかそれで。まぁ構わないさ、今まで以上に忙しいけれど楽しいしね。1日に何度も冷や汗をかかされるが。

「そうだな、すごいすごい」
「えへへー!」
「相変わらず元気」

飛び跳ねる桜、酒を飲む俺とエルヴィンとミケを余所に、寝そべって何かを見ている着流しを着たヒトガタの男とクソメガネ。ちなみにレイとミケの式神である初花は夕食の準備をしている。

「何してんだ」
「今イイ所なんだから話し掛けないで!」
「なら何読んでる」
「春画だよ春画!」
「と言っても俺はハンジに勧められて読んでるだけだけど。人間は面白いね」

白髪赤眼の男。名前は『疾風』
ハンジの式神で正体は大天狗。強力な神通力を持ち、善悪の両面を持つ妖怪。優れた力を持った仏僧、修験者などが死後大天狗になると言われてる。八ツ手の葉を団扇替わりに扇ぎ、春画を見てるこの無気力野郎が生前そうだったとは到底思えない。
契約した理由?大天狗!大天狗!!ってそりゃもう日夜問わずにしつこく追い掛けられて。余りにしつこいから殺そうかと思ったんだけど…段々不憫というか哀れになったから仕方なく契約してあげたって感じかな。妖怪にすら哀れに思われるクソメガネ。

「お待たせ、出来ましたよ」

レイが初花と部屋に戻ってきた。

「ほぉぉ…!」
「ハンジ様?」
「美女2人!目の保養!まさに歩く春画!」
「一応ガキがい「しゅんがってなーに?」
「んん!?知りたい!?それは、」

数秒後、自分の式神に拳骨されていた。


*


「あのね?」

4人の陰陽師と4体の妖怪。
だがヒトガタであるから8人。
騒ぐこと自体好きではないがこの面子なら俺も嫌ではない。毎日は鼓膜が引きちぎれそうなのでまっぴら御免だが。食事を楽しんでる中で急に桜が挙手をした。

「わたしとえるは、親子みたいだって!」
「うん、素敵な親子に見えるよ?」

俺に酌をしながらレイが答える。

「ハンジとはやては…きょうだい!」
「桜、それって俺が上だよね?」
「いや私でしょ!」
「なんでよ」
「なんでも!」
「死んでも譲らな「ミケと、はつはなはー…ふうふ!」
「そ、そんな…!」

分かり易いくらいに恥ずかしがっている初花。昔から妖怪らしくない。コイツも本来の姿のままで生活している。だが主はしれっとしていた。

「夫婦か、俺は別に構わない」
「それは興味深い発言じゃないか」
「互いに好き合っている。そうでなければ契約なんざしない」
「ほう?」
「ぶふぉぁっ!?ミケ大胆過ぎ!」
「ミケ様…っ!」
「隠す事でもないだろう」
「オシドリふうふだね!」

確かにこの2人は円満な夫婦に見える。
だが俺達の円満ぶりに比べ「レイとリヴァイはトモダチ!」
「ふふっ、ありがとう」
「おい」

馬鹿かコイツ。

「どう見ても夫婦だろうが」
「始まった始まった」
「落ち着け」
「テメェ等より円満だ。ナメんじゃねぇ」
「俺達がいつお前達をナメた」
「やる事はやってるぞ」
「ちょっとリヴァイ」
「黙れ。いいか?今からレイと俺がどれだけ仲睦まじいのか一から百まで教えてやる」

ならわたしも!えるがどれだけ優しいのかみんなに教えてあげる!すると契約した妖怪の性なのか疾風と初花も主の話をし始める。俺は全然ないからすぐ終わるけどね。初花はたくさんあるんじゃない?私ですか?…えぇまぁ。このオシドリ夫婦め!それは俺達だ口を閉じてろクソメガネ。

結局つまり?
俺も、私も、わたしも
あなたが好きだってこと。

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