「そのまま動かないでねー…?」
「うん」
「おっと、返事されるだけで勃ちそう」
「え…?」
「ハンジお前さぁ!」
性懲りも無く、とはこういう事だ。
兄のハンジと弟のナナバ。
この兄弟は女装癖がある。昔は女に見えたものだが成人してしまってはどんなに着飾っても男にしか見えない。と言っても中途半端な女装ではないから正体を知らない周りは勘違いする。薄いながらも血の繋がった親戚からしたら勝手にやってろ、だが。気が削がれたナナバが喰ってかかっていた。
「汚すのやめろ。レイちゃん、ハンジのこと大いに嫌っていいからね」
「え!?それは嫌だ!ごめん!やだ嫌いにならないで!?」
「な、ならないですよ…?」
「あぁあぁありがとう…!!それじゃ仕上げに、」
そして今、2人はレイに化粧を施している。
事の発端は簡単だ。遊びに来る。レイちゃんちょっと俺達に付き合ってもらっていい?私はいいですけど…何をするんですか?ん?いや、物凄くお肌もちもちプルプルでノリがさぞかし良さそうだと思ってね?だからメイクさせて欲しいんだ!
「ハイ出来た!これがモード系!」
了承を得てからは普段はイイ歳こいてふざける事しか出来ない2人が、一切笑わずに真面目に作業をしていた。少し興味が湧いたリヴァイは黙ってそれを見ている。隣に座るミケは変わらずパソコンをしていた。
「可愛い!!」
「鏡どうぞ?」
「…わぁ…!自分なのに違う」
「さっさと向け」
「あーやだやだ横暴!」
クルリと椅子を回せばリヴァイと画面から顔を上げたミケと目が合った。同じ屋根の下に住んでるとはいえ異性だ。何と言われるか少しは気にしてしまう。
「…ほう」
「どう…かな…?」
「悪くない」
「悪くないって何だそれ」
「あーーー…どうしてあなたはこう、上から目線なんだろうね!」
もっと褒め言葉があるでしょーよ!
それならレイちゃん!次のメイクするから!会話も程々にクルリと椅子が戻される。
「最後はナチュラル」
サッパリとモードメイクが落とされた後にはゴスロリだとヴィジュアルだの中には聞いたことがない〇〇系のメイク。丁寧な手付きが白い肌の上を滑っていく。そんな中でもこの兄弟は手付きはプロ顔負けなのに口から出る言葉は『食べたい』『勃つ』ばかり。レイを何だと思ってやがる。
「出来た!うぉぉ…!」
「こッッれは…色気がある…!」
色気だと?当の本人の顔は向こうを向いていて見えない。
「おい」
「何リヴァイうるさい」
「黙れ。レイ、見せろ」
「いや!コレはダメ見せらんない!」
「は?テメェが決めるな」
「レイちゃん!今からちょっと部屋行こうか」
「部屋に、ですか?」
「そうそう!可愛がってあげる」
「断れ。余計な手出ししたら…待て!」
「じゃあね〜!」
制止も聞かずに彼女の部屋へと消えていった。
「クソが…!何とも思わねぇのか」
「セックスするわけじゃない」
「言い切れんのかよ」
「セックスするなら、」
もうこの家に来た瞬間襲ってる筈だ。
「…」
それは確かに。
ただ相当に可愛かったらしいな。あそこまではしゃぐアイツ等もそう見ないだろう?呑気にキーボードを打つ、曲がりなりにも兄である存在の意見に柄にもなく納得してしまった。
*
「そうそう!あっ!ううん、もうちょい首を傾げる感じで…」
「こう…ですかね…?」
「それ!!んぁー可愛い!」
レイの部屋ではハイテンションを極めた兄弟によって撮影会が始まっていた。何処から取り出したのであろう一眼レフを構え、次から次へとポーズを取らせてはシャッターを切りまくるハンジとナナバ。
襲いたいという気持ち。
だって俺達は男だから無いと言ったら嘘になる。けれど今日は可愛がりたい。あぁ、この撮った写真たちは一生の宝物だ。
「ねぇなんでこんな可愛いの?」
「そんな、可愛いくなんか…!」
「そういう所が可愛いんだってば」
「わ…っ」
ぎゅうっとナナバが抱き着く。
すっごくいいにおい。
「あっ!ズルい俺も!」
ガバッと今度はハンジが。
「レイちゃん好き!可愛い!」
年齢はよく分からないけれど不思議と今の2人は子供みたいで…思わず笑みがこぼれる。
「私も2人が好きです」
「マジか!告白ッ…された!」
「だから、あの…」
「っへ…?今…」
「お礼です」
弟の頬に当たった柔らかい唇。
遅れて兄にも当たった唇。
恥ずかしそうに笑うレイ。
ほっぺに、チューされた。
「なんッッッて可愛いの!!これはもういいよね!?」
「俺達からもお返しのチューしてい『おい!何しようとしてんだ!』
ドンドンドンッ!!
ドアを叩く大きな音とリヴァイの怒声。
鍵か掛かっているので開かない。
「何ってチューだよ!邪魔しないでくれるかな!?」
『今すぐ開けろ』
「男子禁制!あっち行って!」
『ふざけんな』
「さぁレイちゃん!お兄ちゃん達に全てを委ねていいからね?」
「あ…っ、」
怒り狂ったリヴァイによってドアが蹴り破られるまであと数秒。