いつも一緒にいるから分かる。
本当に、小さい時から一緒にいたから多少の言動の変化で私にはすぐ。ここ最近気付けば考え事をしている。お菓子を考える時とは違う目の色。体調が悪い訳ではなさそうなのでそこは安心。

「レイ」

振り返る時の動作。私よりも小さい身体。
サラサラした髪が逆らうこと無く揺れる。
彼女が笑うと私は嬉しい。
彼女が泣くと…そんな事は一編たりとも考えたくない。泣き顔は見たくないから。

「ミカサ?」
「…何でもない。考え事をしていた」
「そっか」
「レイも考え事を?」

そんな顔をしていた。
そう伝えれば小さく頷きを返される。別に大した悩み事でもないから大丈夫だよと笑う顔は、いつもと違っていて。本来なら『そう』で返すべきなのに。そうする事が彼女にとって一番になる筈なのに出来なかった。

「恋愛」
「え?」
「そういう風に思えて」

分かる、分かってしまう。
私たちの間を何かが通り抜けた。

「でもね?まだ漠然としてる…」

次の授業は違う教室へと移動しなければいけない。階段を一段先に降りていくレイに手を伸ばす。人差し指が掠める感じで触れて。
『いつも』じゃない。

「誰かを好きになった」
「…かも、しれない」

予測出来ていた答えの筈なのに。
悲しい。一気に引き剥がされた。でもレイが誰かを好きになるということは彼女が幸せになれるのを意味する。私にとっても嬉しいことなんだ。言いたくはないけれどどこまでも分かってしまっている。

「…うん。…最近…ジャンくんのこと考えちゃう時があって…」

ダメだ、歩みが止まる。
殴りたい衝動。投げ飛ばしたい衝動。
引っ掴んで引き摺り回したい衝動。

「彼はやめて」
「…え?」
「やめて。お願い」
「どうし「レイは私のものなのに」

何故今頃、横取りしに来たの。
私を見捨てないで欲しい。
それと同時に私を許して欲しい。
駄々を捏ねることしか出来ない私を。
気分が大いに変わった。
今一緒にいたらもっと彼女に言い詰め寄ってしまいそうだから。次の授業は休むと簡潔に伝えて降りていた階段を登っていく。

「…」

ノートに教科書、ペンケース。
全て持ったまま屋上のドアを開け放つ。
閉めた時に授業開始のベルが鳴った。
少しだけ今日は風が強い。

「…」

見上げた空は青空で澄み切っている。
その時持っていた物を全て地面へと投げ付けた。分厚い教科書は乾いた音を立て、軽いノートは風に吹かれパラパラとページがめくれていく。ペンケースが叩きつけられた反動で開き中身が散乱した。

そうしたら急に寂しくなって両手で顔を覆う。涙は出てこない寂しさ。心にポッカリと穴が空いたような。

「レイは…私のものなのに」

ジャンのせいだ。彼女に近付くから。彼女を助けたから。喜ぶべきことなのに頭じゃ分かっていても身体と心が認めようとしない。絶対に認めたくない。会って間もないアイツが彼女に関わる資格なんてない。私だけで十分。

「…神様は残酷だ」

ずっと一緒にいたかっただけなのに。
それがそろそろ、きっと終わりに近づいている。抗う術はない。受け入れるか、私が先に彼女を手放すか。手放すなんて出来ない。だから最後までレイの元にいたい。離れるのはせめて、もう少し先がいい。だから少しだけ抗ってみよう。

「…それでも残酷だ…」

手摺に寄り掛かり膝を抱えて座る。
今この景色を遮断するように膝に顔を埋めた。

「…私が、」

嗚呼、私が男だったなら。
それだけだ。一生の過ちを神様は犯した。
どうして女に生まれたのだろう。
そうだとしても言わせて欲しい。
(恋だ、友情ではなかった)
ずっと、あなたのことが好きだと。

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