夕食は外で食べましょう。
夕刻の大通りはやはり人で賑わっている。
腕組みをして盛大に舌打ち。
またしても泊まりで俺とレイとの時間を邪魔しに来やがったこの3姉弟。

「大通り久しぶりに来る!すげー!」
「エレン、離れないで」
「だっこ!」
「甘やかしてんじゃねぇ自分で歩かせろ」
「リヴァイ」
「聞こえねぇ」

未だ別方向に行こうとするエレンの頭をひっぱたき渋々レイ達の後を付いていった。何にしようか?呑気に話してる主はアルミンを抱き楽しそうに姉弟達と話をしている。

「3人が食べたいのにしようね」
「油揚げ」
「レイ、狐は家で油揚げ食べるって」
「このクソガキ」
「俺うどん食いたい!」
「ぼくも!」
「それなら美味しいお店があるの」

しばらく歩くと例の美味い店に着く。
前に2人で来た、2人で。何故か今日は5人という不本意な人数だが。確かにこの店は美味かったから店主に言ってやった、死ぬまで贔屓にしてやると。中に入ると混んではいたもののすぐに席へと座る事が出来た。

「冷たいのと温かいのどっちにする?リヴァイは冷たい方でいい?」
「あぁ」
「冷たいの!」
「私とアルミンはあったかいの」

注文を受けてからはエレンが意味もなくすげー!すげー!はしゃぐもんだから、うるせぇとまた1つひっぱたいておいた。
それにしても何だこの布陣は。どうなってんだ。レイの膝の上にアルミン。その隣にミカサ。おかしいだろ。誰がコイツと隣同士で座るって言った?すこぶる納得がいかない。

「おい、そこ代われ」
「いやだ」
「代われ」
「いやだ」
「代わ「子供みたいに駄々をこねないで」
「お狐様オトナゲないのか!?」
「叩き出すぞ」
「えれんとおきつねさま、けんか?」

喧嘩じゃないよ。一方的にお狐様が拗ねてるだけだから。クスクスと笑うレイには腹が立たねぇ。ああやって笑う姿も好きだからだ。ただ隣でしてやったりに笑った3姉弟の長女には心底腹が立った。

「お待たせ…まぁレイ様!お子さんがいつの間に3人も!?」
「うどんだうどん!」
「だからうるせぇ」

久遠の中で陰陽師は身分の高い職であるからか大抵様付けで主のことを呼んでいる。

「ふふっ、この子達は私の親戚なんです」
「こんばんはー」
「こんばんは!」
「こんばんは」
「そうだったの!いつもお2人仲睦まじいじゃない?だからてっきり…こんばんは!みんないい子達ねぇ」

いつも仲睦まじい、ほう。
うどんが美味いだけあって俺達のこともよく分かってやがる。さすがだ。いくらか機嫌が良くなった俺は言ってやった。

「死んでも贔屓にしてやる」


*


意味が分からねぇ。

『髪の毛すごく綺麗』
『ミカサだって艶々だよ』
『ぼくはー?』
『アルミンも艶々』
『やった!』

「…」

『また一緒にお風呂入ろう?』
『もちろん、いつでも泊まりに来て?』
『うん』
『そろそろ出よっか』

風呂場からそれは楽しそうな3人の声。

「お狐様どうし、ぶふっ!」

部屋には俺とエレン。
枕投げ!?やろう!飛び起きたガキの顔にもう1回枕をぶち当てておいた。
今日は男性2人でゆっくり入ってくださいね。馬鹿野郎、コイツと入ってどうゆっくりしろってんだ。出来るヤツがいたら教えて欲しい。その前にアルミンは男だろ。まだ小さいんだからそこは別でしょ?別じゃねぇ。ならみんなで入ります?狐はエレンと入りたいって。レイ、行こう?

「…」
「はー!いい湯だ!」
「爺かテメェは」

いざ入ったらそれ見ろ。
うるさい、狭い、うるさい。
分かりきっていただけあって苛つきは更に溜まる。動く度に湯が大きく跳ねて顔に当たったので桶で顔にぶっかけてやった。

「次騒いだら殺「お狐様お狐様!」
「下らない話は聞かね「俺!将来レイとケッコンするんだ!」
「そうかよ勝手にし…何だと?」
「だって綺麗で、作ってくれるご飯美味いだろ?優しくて、あと…」

つらつら出てくる主の好きな所。
俺は黙って聞いていた。
だが話し終わったと同時にまた顔に湯をぶっかける。

「ぎゃー!」
「俺の、レイだ」
「俺の!!」
「俺のだ」
「俺の!!!」
「力づくで黙らせてやろうか」
「レイー!お狐様がいじめるー!」

ふざけんなこの野郎。


*


「寝る時まで離れてんのかよ」
「狐、静かにして」
「チッ!」

布団2組分離れている。
これは由々しき事態だ。
とんでもなく遠い。
そんなレイは子供達に話をしている。既にアルミンは夢の中に行っていた。
やる事もないので布団の上に横になる。

「続きは!?」
「それでね?陰陽師は妖怪を退治しに山奥の洞窟へ行くの」

長々続く。作り話なのかは分からない。
時折ガキの笑い声でカッと目が開いたが、レイの優しい声が心地良くてまた瞬きの速度が遅くなっていく。

「それから…ふふっ、寝ちゃった」

道理で反応がないと思ったら。
リヴァイも寝ていた。子供達に布団を掛ける傍ら彼の元へと移動して腰を下ろす。今日は少し寂しい思いをさせてしまったかもしれない。唇に口付け、感謝の意味を込めて。

「ありがとう」

立ち上がり渡殿に出る。
空は満点の星で美しく溢れていた。

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