少年達が集まる廃屋の中は以前誰かが使っていた形跡があちこち残っている。
投げるとカサッと軽い音を立て、木で出来た豪勢な机の上に落ちた。袋の中に入った大量のドラッグ。
「たまげた。ルートどうなってんだよ」
「さぁ?企業秘密」
袋からマリファナを出すと手で細かく砕いてからジョイントで巻いていく。あとは煙草と同じ様に吸うだけ。此処にいるヤツ等とは長いこと行動を共にしてるがただのビジネスライク。互いに居場所がないから一緒にいるだけ。金髪の少年は人一倍うるさく騒いでいる少年を指差し鼻で笑った。
「ヘッドタイプになってんじゃん」
「アハハッ!そうだアイツ!あっち根城にしてるギャングいるだろ?」
「いるね」
「そこの女捕まえてヤろうとしたら拒否られて殺したんだよ!」
「いい気味だわ」
「なぁあの大量殺人!」
違う少年が肩を組んできた。殺人?確か今日繁華街近くのマーケットであったアレか。それがどうしたんだと聞けばコイツ等がやったらしい。自慢気に話してくる。
「一般人殺ったわけ」
「殺りやすいから良くね?」
「…そうかもな。少し出てくる」
「おー!気を付けて!」
これが別れ目だった。
「もう行けるの?」
出れる準備をして来い。指示通りエルヴィンの部屋に行くと彼と見慣れない少年が1人。でも家族だからそれがハンジだとすぐに分かる。最近急に噂され始めたギャングのことは知っているだろう?所詮子供の遊びと考えていたら俺の想像以上に殺しに強盗、強姦にあとは…まぁとにかくやりたい放題してるらしくてね。こちらではなく向こう側の友人からどうにかしてくれと頼まれた。彼はあらゆる世界にパイプを持っている。
悪い芽は早く摘み処分するに限る。
さぁ仕事だ。エルヴィンは立ち上がりジャケットを着るとレイ達に視線を送った。
「殺すのね?」
「もちろん」
大人の言うことを聞かない手に負えないガキは殺すのが一番だろう?
*
「おや?まだ1人いたとは。お帰り」
知らない気配。銃を構えながらドアを開ければ辺り一面が血の海だった。呆然。さっきまで話していたヤツ等が誰1人息をしていない。死んでいる。豪勢な机に座った男は俺に淡々と告げた。
「…全員…」
「あぁ、殺らせてもらった」
他に女が1人と、コイツ…ずっといたヤツ。
「お前…グルだったのか」
「そ、変装して潜入なんか朝飯前」
「私はエルヴィン、彼女はレイ、そしてハンジだ」
「わざわざ教「冥土の土産だよ」
見た所銃を使うみたいだが私達が何を使うかは知らないだろう?抗って死ぬか、自分で死ぬか、大人しく殺されるか特別に選ばせてあげよう。本気を出さなくてもガキなんざすぐ殺せる。
「血気盛んなのは結構だが大人を余り馬鹿にしない方がいい」
何故か手が震える。撃てない。
全部が見透かされてる。
今まで感じたことのない気迫だった。
「…俺、は…」
「死ぬか、私達と来るか」
「…来る?」
ハンジから全て聞いたんだが…
「いつも花を手向けてるそうじゃないか」
「…」
「だからこの場にいなかったんだね」
「…」
花。
そう、前に俺の撃った弾が何の罪もない女の子を殺した。狙いが外れたせいで。それ以来こっそりだけどその子の墓に花を手向けてる。せめてもの、償いになればと思って。
「…マフィアとかギャングなら殺す」
人間と呼ぶにはおこがましい存在だから。
「でもあの人達は…人間だから殺さない」
ずっと自分に与えていたルール。
構えていた銃を下ろした。
急に男の纏っていた空気が柔らかくなる。
俺がどういった決断を出すことすらも、見透かされていたのか。
「裏切らないこと。これが掟だ」
「それだけ?…変なの」
「そこら辺は子供と違うからねぇ」
「まだ名前を聞いていなかった」
後にエルヴィンが話していた。
彼は銃を扱うセンスに長けていると。
「…」
(君の名前は?)
仲間でも家族でもなかったヤツ等の死体を最後に見てからドアを閉め、今までの我が家を去った。せめてもの花向けにと銃弾を死体達にバラ撒いて。
「ナナバ」
*
手作りだか買ったんだか知らないけどサイドテーブルに置かれたアロマキャンドル。好きだと言っていた。ゆらゆらと小さな火が揺れている。薄暗い暖色な空間を堪能していると部屋の主が帰ってきた。
「お帰り」
「ただいま」
「浴びる必要あった?」
レイはベッドに腰掛けると寝転がっているナナバの髪を撫でた。上半身を起こし頬を舐めてみる。シャンプーの香りと混ざって大好きな味。手を絡めていく。
「汚れたままするのは嫌だもの」
「俺のため?」
「うん。ダメだった?」
唇で唇を啄むキス。
既にレイは彼の腕に収まっていた。
「まさか。早くセックスしたい」
「…ふふっ、今日は何だか照れる」
可愛い。大好きだよ、姉ちゃん
*
「…」
寝覚めの良さをまさか体感するとは…死ぬ迄縁がないと思っていたが。ほぼ丸1日寝てたらしい。身体が軽い。もちろん起き上がれば部屋は俺以外誰もいなかった。良いんだか悪いんだか。
…レイ・ローゼンハイム…か。
「面白ぇ」
殺しばかりの退屈が、終わった。