「わざわざ届けてもらっちゃって」
「っす。あ、これです」

代わりに頼んでおいた物があるからお隣に届けてくれない?夕飯食った後にババアにミッションを言い渡される。今更ながらに俺とレイ様、さんとアークデーモンの母親達は仲が良いらしい。というわけで重い腰を上げて届けに来た。

「ありがとう」

綺麗なお母様。ババアとは月とスッポン。
同じ女性でこうも違うとは…いや遺伝子ってヤツは尽く奥が深いぜ。

「代金は立替えといたってクソバ…母親が」
「わかった。そうだ、レイが来たら部屋に呼んでって言われてたの」

階段上がって1番奥だから寄ってもらってっていいかな?何とか頷く。既に心臓はうるさく音を立てていた。しかしこの心臓、毎回レイさんが絡むとうるせぇな。持ち主誰だって聞きたいわ。

「お、お邪魔します…!」
「散らかっててごめん、よろしくね!」

お母様、何処が散らかってるのかご説明して頂きたい。整理整頓され過ぎててハンパねぇ。言われた通り階段を上がる。そんで1番奥…ん?今からレイ様の部屋に入るってこと…か!?おいおい女子の部屋なんざ入った事ねぇよ大丈夫か俺もそうだが特にキルシュタ「グハッ…!」

ゴンッ!

「い゛っ!?てぇ…!」

ボケッと歩いてたら鼻からドアにぶつかった。結構な威力に反射的に鼻を押さえしゃがんでしまう。クソ痛い。だからドアが開いたのにも気付くのが遅れた。

「ジャンくん!?大丈夫…?」
「いえ、な…なんのこれしき、!!?」

俺と同じ目線に合わせてくれたレイさん。
おいどうしてバスタオル1枚なんだよ服はどうした風呂上がりかよ髪濡れてるよいいにおいしまくりだろふざけんな最高でした。
何故か意識が朦朧としてくる。

「おぉ…これぞ楽園…」
「ら、楽園…?しっかりして!とりあえず部屋に入ろう?飲み物持ってくるから!」


*


「本当に申し訳ありませんでした」

深々と土下座する。迷惑をかけたのにレイさんはそれよりぶつけた所は大丈夫?と変わらず心配してくれた。聖女か。部屋着は半袖にショートパンツって半袖、身体のライン分かりまくりか。意外と胸あ…何でもありません。ちなみに着替えの際俺はちゃんと外に出ていた。えらい。
柔らかい雰囲気の部屋。
センスがあるっていうのか?学生っぽくない。一言で表せばオシャレ。

「気にしないで、ね?」
「…アークデーモンにだけは言わないで、くだ、さい…頭皮マジで抉られる…」
「ミカサのこと?ふふっ、言わないよ」
「殿…!ありがたき幸、!?」

突然腕をやんわりと掴まれた。
いつまで床に座ってるの?お客様なんだから椅子はないけどベッドに座ってくださいって笑いながら。引かれるがままに座る…やべぇ寝てるベッド…というか何故レイさんは会う度いいにおいがするのか不思議でならない。聖女だからか?

「あの、これ…良かったら」

差し出されたのは小さくて可愛いバスケットに入った薄ピンクとオレンジの丸いモノ。

「マカロンていってフランスのお菓子だよ」
「おフランス…え?これもよく行くケーキ屋さんの?」

恥ずかしそうに。

「私が作ったんです」
「え?へ!?嘘だろすげぇ…!」

レイさんはお菓子を作るのが趣味なんだとか。クッション抱きしめて床に座っている。可愛い。エロ本及びAV収集及び鑑賞が趣味の俺とは次元が大違い過ぎてすげぇしか出てこない。

「…食べてもいいっすか?」
「どうぞ」
「いただき、ます」

1口。サクサク…ではない、ホロホロ?柔らかい。クリーム?甘い。美味い。

「どう…かな?」
「めちゃくちゃ美味い」
「ほんと?やった」

本当に反則だわその笑顔。

「ジャンくんに食べてもらいたいなって思って作ったの」
「え?」

つまり『俺への手作り』?
嬉しさが込み上げて手が震える。
おい聞いたか。エレンにライナーにベルトルト聞いたかおい、お前等じゃ一生掛かっても来ねぇだろうイベントが俺に来たぞ。手作り頂きました。大丈夫だよな泣いちゃいねぇよな?

「ありがとう…ござる、ございます」
「どういたしまして」

食べたいのあったら作るから良ければリクエストしてね。レイさんからの…なんだこの素敵過ぎる特権。付き合ってないのに…!ちゃっかりアークデーモンはリクエストしてるそうで。アイツ人間じゃねぇのに菓子食うのかよ。面と向かっては恐ろしくて言えないので内心で言っといた。

「…あ?」

途中話してる間ズルズルと、レイさんの身体が傾いているのは知っていた。ただ次見た時彼女は床でスヤスヤと寝ていた。クッション抱き締めたままで。

「ちょ、お?寝て…る!?」

慌てて口を塞いだ。起きるってんだよバカ。でもこれだと…風邪引くよな?
何か掛け…でも床硬いからこのまま寝かせるってのもどうなんだ…ベッドに運ぶしか、ない?誰が?お母様?え?

「俺か」

無心で彼女をベッドに寝かせる。
風邪を引かせてしまいアークデーモンに殺される。どう考えたって前者だ。
覚悟決めろ。別に手を出す訳じゃない。
その気になりゃ数秒で終わる事だ。
いいか?空気読めよキルシュタイン。
まずは、布団をどかした。

「…失礼します」

生まれて初めてのお姫様抱っこ。
軽い。レイさんは普段何食ってんだ。
下半身的にも問題なく寝かせる事が出来た。
どっと原因不明の疲れが出たのでベッドの端の方に座る。

「ん…」

そっと髪を撫でてみたら声が漏れた。
起こしてぇのか右手のバカ野郎。
本音は写メりたいが我慢。
キルシュタインだって耐えたんだ。
焼き付けろ、目と心に。
オカズにはしないと誓う、たぶん。
やべ、眠くなってきた。

「…ジャンくん…」
「こ、こちらにおります!」
「ありがとう…」

眠かったらこっちで寝てね?
コロコロ転がり一人分のスペースが空く。
それもレイさんの隣。
また寝息が聞こえ始めた。

「…」

俺はその時どうしたか。
正直眠くて覚えていない。
ただ、その日家には帰らなかった。

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