「レイ!逃げろ!!」

振り下ろした腕が太い巨大樹の枝を容易くへし折った音でミケの声がかき消される。すぐ近くの枝へ立体機動で飛び移るが休んでる暇はなく、またすぐにこちらへ向かってきた。

『ウォア゛ァァ゛アァ!!』

後ろを見なくても凄まじい足跡が追い掛けてくるのを身体で感じる。アンカーを出し森の中を高速で移動していく。1歩でも立ち止まってはいけない。しかし心配事はガスの補充をしていなかったこと。使い切るまでに何とか振り切れればいいが…それすらも出来そうにない気がする。何せ通常の巨人と違い動きが速いからだ。話なんて出来る状態ではない。となると項を直接狙い中身を出すしかない?その前にどうしてこんなことが。

『ア゛ァアァアア゛ァ!!』

レイ兵士長が俺から離れていく。
それが嫌で追い掛けるのにまた距離が開く。
立体機動装置の技量は本当にすごい。
けれど誰の元に行くんですか?
リヴァイ兵長達の所へ行くのはダメですよ。遥か後方にいるけれどそれだけは許さない。

だから俺の元に。レイ兵士長、さぁ早く。
そうしたら、助けてあげますから。

「…このままじゃ、!」

しまった。低く飛び過ぎて着地が。
気付いた時にはもう遅かった。

「っあ゛…っ!」

速度があったせいで地面に叩き付けられる。その反動で立体機動装置が外れブレードが投げ出されれば身体が逆らうこと無く転がっていった。途中強い痛みが全身を包んでいく。土のにおいに混じって血のにおい。でもそれすら考える余裕は、なかった。
(立たなきゃいけないのに…)
(だめ…もう意識が…)
(途切れ、る、)


*


木々たちの織り成す影のお陰で巨大樹の森は昼間でありながら僅かに薄暗い。俺はようやく走っていた足を止めてしゃがみ込んだ。

『…』

うつ伏せで倒れ意識を失っているレイ兵士長。大きな手で細い身体を折ってしまわないよう手のひらにそっと乗せる。
じっとその姿を見つめるだけで高鳴った。

『…』

手に入れた、やっと。
兵士長は俺のものだ。
あなたを苦しめるものは何もない、つらい過去も何もかも終わりにしてあげます。だってあなたを助けるのは俺だから。人間だったら今すぐにでも抱いて抱いて、それこそレイ兵士長が壊れるまで犯していたかもしれない。
ただそれをしようとするとリヴァイ兵長達が邪魔をしてくるもんだから、それなら1番いい方法がある。

『…』

手のひらの上に横たわる彼女。

『…』

今度は身体をそっと掴んだ。握った手の中に収まっている。1番いい方法。
エレンは大きく口を開けた。


*


「においが強くなっている、近いな」

他のヤツ等はエルヴィンに報告に行かせミケと共に森の中を立体機動を駆使して進んでいく。間違いなくエレンはレイだけを狙っていた。前々から随分と執着してはいたが理由は明確には分からない。いずれにせよ命令違反どころではない事をしでかしたのは事実だ。

「エレン!」

しばらくしない内に巨人化したエレンが見えてきたが…いたにはいたが?

「!」

今…コイツ何しやがった。
手の中にいるレイを、

食べた。

「レイ!!!」
「リヴァイ待て!」

そしてエレンは再び走り出した。まるで2人から逃げるようにして。
あのガキ何処まで調子乗る気だ。
もう関係ねぇ。
人類にとってどうだこうだの存在と言われてるがそれも今ここで終わりだ。
殺す。

「待てるわけねぇだろ…!!」
「お前が我を見失ってどうする!」

まずはレイを助け出すのが先だ。恐らく生きてる。項を切り開いたその後に殺す殺さないを決めればいいだろう。ミケの言葉に舌打ちだけを返しておいた。

「今は俺達ですら殺しにくるだろうな」

殺れるもんなら殺ってみろ。
頭が悪い分長期戦にはならないだろう。さっさと終わらせる。ただ…そのせいでテメェが死んじまっても知らねぇからな。

「行くぞ」

お前には絶対渡さない。
レイは、俺達のものだ。

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