悪事は儲かる。
この言葉がどれ程の意味を持つか、表世界で分かる人間は誰もいないだろう。2人は他愛も無い話をしながら命じられた仕事を終わらせる為に鈍いネオンがあちこち光る街を歩いていた。我等がボスによればこちらから伺うという話を既に付けてあるという事だ。

数分もしない内に大きな洋館に着く。
重厚な扉。親交があるファミリーとして何度か自分達も来た事がある。没落した貴族の家をそのまま買い取ったとか何とか言っていたような。叩こうとする前に相手先の部下が扉を開けた。

「お待ちしていました、こちらです」

マフィアながら恭しい態度で有名なこのファミリー。それでも一度凶器を手に取れば豹変する。2人をボスの部屋へ案内しようとした所でレイが隣を歩いていたミケを制した。

「下で待ってて」
「お2方で構いませんが?」
「いいの。此処で出されるお酒はどれも美味しいしたまには飲んでたら?」

今後についての簡単な話をするだけだしね。
ミケも異論はないようで頷いた。

「それでもいい?」
「畏まりました、それでは別室へご案内致します。おい」

男は部下を呼び付け此処で彼とは別れることになった。螺旋階段を上り2階。そこから長い廊下を歩いて最奥の部屋へと向かう。コツコツとヒールの音が木霊した。

「ボス、お連れしました」
『入れ』
「私はここで失礼致します」

テキパキとした動き。去っていく姿を見送りドアを開けると見知った男が。レイは抱き締め頬にキスする。身体を触ってくる手。膝の上に座ってと言われたのでそこに腰を下ろす。次は向こうからのキス。

「久しぶり『レディ・ヴェレーノ』」
「本来ならボスが出向く筈だけど」
「構わないさ。ところで『マッド・ドッグ』は下で飲んでるのか?」

彼は酔わないから館中の酒が飲み尽くされないか心配だよと笑う。レイも釣られて笑うと早速仕事の話に取り掛かった。多くの金が絡む世界な以上ファミリー間でもそれなりの取り決めというものがある。事細かに互いが話し終えるとワインを差し出してくれた。レイが好きな銘柄だ。

「手に入れるの大変だったんじゃない?」
「でも君の為なら」
「ありがとう。なら私からも」

そう言って懐から小さな小瓶を出した。
男の目がほう、と嬉しそうな色になる。
非常に希少価値の高いドラッグ。

「信頼出来るルートだから大丈夫」

レイは1口飲み残りを渡した。
何度かキスをした後に男は疑う事なくそれを飲み干す。

「一緒に気持ち良くなって?」
「それなら、っ!?あ゛…がはッ…!」

突然立ち上がり大量の血を吐き蹲った。
咳をすればする程に床が赤く染まっていく。

「な、にが…っ!あぁ゛っ…!これ、は…どういう…ことだ…!?」

声も枯れがれ、苦し紛れに床をのたうち回る男にレイは冷たい視線を落とした。

「あなた達が最近ピンハネしてるって噂があってね」

グッと頭を掴み上を向かせる。
それだけならまだ許せるの。でも無関係な人間、女子供も見境なく殺し回ってるって調べも付いてるんだけど?ルールよね?あくまでマフィアはマフィアだけで殺し合うのが当然。武器も持たない非力な人間を殺すのはルール違反じゃない?

ほら、事切れる。
このファミリーは終わり。

「ぅ゛あ…っお前、も…っ飲んだ…はずだ、ろ…!!」
「あれ?馬鹿な人、忘れたの?」

開け放たれた窓。もう此処に用は無い。
そこから足を掛け飛び降りた。

『ヴェレーノ』は『毒』って意味。
前に教えてあげたでしょ?

「私の身体は毒じゃ死なない」

大きな腕に抱き留められる。
ミケはレイを抱いたまま歩き出した。
頬に血がベッタリと付いているが返り血。
結構な人数がいたと思うが彼にとっては大した事ではないらしい。さすが。

「歩けるよ?」
「俺がこうしたいだけだ」
「ふふっ、ミケはあったかいね」
「触られたんだろ?」
「そういう人だったから」

なら帰ったら綺麗にしなくちゃな。


*


窓から射す夜の光だけが2人を照らしている。服は脱ぎ捨てられ裸と裸が重なり合う。荒い気遣いと嬌声だけが真っ暗な部屋を包み込んでいた。

「レイ…」
「あっ…!ゃ、ミケ…っ」
「ん…?」
「いゃ…足り、っない…ぁっ…!ぁ、もっと…突いて…」
「…こうか?」

おねだりすれば欲しかったモノが奥へ奥へと入ってくる。気持ちいい。律動してる間にもしっかりと抱き締めてくれる腕。名前を呼んでくれる優しい声。既に何回か達しているから少し中が擦れるだけでも快感が溢れ出す。

レイの喘ぐ姿を長く見たくてついつい達するのを我慢してしまう悪い癖。けれど、きっと俺だけじゃない。

「っそろそろ、一緒に…っイって…?」
「…そう、だな…」
「ぁんっ!だ、め…急に…っ早くするのは…ぁっ、いじわる…っ!」
「それはお前が…っ悪い…」
「あぁっ…んぁ…っ!」

放たれた生あたたかな欲。中が痙攣しているのがよく分かる。一緒に達したのが嬉しくて、息を吐きながら寄りかかってきたミケの頭を腕に閉じ込め優しく撫でた。ぎゅうと抱き着いてくる。

「ふふっ…甘えん坊?」
「…そういう歳でもないが…そうかもな」
「思えば元軍人なんだよね」
「あの時レイが俺を救ってくれた。本当に感謝している」
「どういたしまして。じゃあ明日のお昼は…パスタが食べたい」
「甘えん坊か?」
「そうかも」
「仰せのままに」

了承の意味を込めて唇にキスをした。
殺しの合間の甘美なセックス。
甘いだけの素敵な一時。

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