初めて見るお客さん、1人で来たの?
フードくらい外せばいいのに。
え?此処一体がどういう場所か知らない?
呆れた…この1杯は奢りにしてあげるから飲んだらさっさと安全な場所に帰るのね。
此処では生きる為の『何か』を持ってない人間はすぐ死ぬわ。まぁとりあえず、あなたが死んでも私の責任じゃないからいっか。
でもそこまで無知なら…かの有名なファミリーの名前も全然知らないんでし、

『ならお前が死んでも俺の責任じゃねぇな』


*


荒廃した建物が並ぶ市街地を胸元が開き深いスリットのドレスを着た1人の女が歩いていた。やがて目的の場所に着くも入口には体格の良いガードマンが2人。微動だにせずこちらを見ている。特殊な印の封蝋が押された封筒を見せた。

「貴方達のボスから」

それを見たガードマンは無言で頭を下げドアを開けると、もう1人が先導し始めた。中には20代から40代辺りだろうか。血気盛ん、屈強という言葉が似合う大勢の男達が場に不釣り合いな女を見ながら煙草を吸い、酒を飲んだりポーカーをしていた。

「顔パスにならない辺りがさすがの警戒心の高さね」

ガードマンは答えることなく一室へ送り届けると一礼してこの場を去っていく。金銀財宝で埋め尽くされた部屋には、如何にもと言わんばかりの風貌をした30代後半程の男が出迎えた。早速男は彼女を抱き締め腰辺りを撫でながら深く口付ける。

「っはぁ…んっ、…もう…」
「君が目の前にいると抑えられなくて」

胸元から手を入れ直接指で乳首を刺激すると女の身体がピクッと跳ねた。互いが楽しそうに笑う。

「ぁ、っまだ、だめ…ふふっ」
「どうして?」
「窓を開けるの」
「窓を?」

そうよ。好きに触らせたまま後ろ手に窓を開けた。外と中の空気が混ざり合って生ぬるく纏わりついてくる。ネクタイを引き寄せ口付けると耳元で息を吐きかけた。

「外にも私達の『声』を聞かせたくない?」

そして2人してベッドに倒れ込み再び口付け合えば男の手が蜈蚣のように秘部の中、胸を這い回る。まだ挿入もしていないのに部屋が性の甘さで溶けていきそうだった。

「あっ、ん、今日やけに…っすごい…」
「いつもこうだろう?…結婚の話は…?」
「ゃ、あ、ぁんっ…!」
「もちろんしてくれる、」

突然数発の銃声がした。
場所的に…真下のフロアからだ。
男はすぐ様ベッドから降り部下を呼び寄せ、女は不安そうに事の成り行きを見守っている。すると1人の若い黒髪の少年が部屋に入ってきた。

「ボス!急襲です!」
「相手は!?」
「それが分からなくて…!と、とにかくお2人だけでもこの場から逃げてください!」
「行こ、!?」

だが男の身体は少年によって後ろから腕で首を締められており動けなかった。

「おい…!何の、真似だ…!」
「長い間側近で置いてくれてありがと」
「な…っ!?」

少年がパッと手を離すとそのまま床へと俯せに倒れる。何故だ…?何故足が動かない…!切られても痛くなかったでしょう?何とか顔を上げるとメスを持った女が立っていた。

「神経を麻痺させる麻酔を塗ってあるから」
「っ…お前…!!」
「それに腱が完全に断裂してる」

だからもう歩けない。
そうじゃなかった。あなたは死ぬの。
廊下から話し声が近付いてくる。
仕事が早い。

「だからこっち銃なわけ、分かる?あんまりちょこまか動くなら当てるよ?」
「そうだな」
「棒読みやめろ!あとソイツだけか」
「あの…人数を2人で…!?」
「弱きゃ意味ない。それとこのファミリー潰せって俺達のボスからお達し出てんの」
「まさか、お前達が…」

悪いね、理由は地獄で聞いて。金髪の少年が銃を頭に向けると女は男の顔を両手で優しく包み最後のキスをした。まさか…震える口がやっと言葉を紡ぎ出す。


「シュランゲ…!!」


よく出来ましたと笑う。

「勝手に付けられた通り名があるけど特別に本名を教えてあげる」

1発の銃声が頭を撃ち抜いた。

「私はレイ・ローゼンハイム、よろしくね」


*


「やっと我が家だー!!潜入って楽しいけどホームシックになるんだもん」
「お疲れ様」

すっかり静まり返った夜道を歩く。
先程の黒髪の少年は茶髪の眼鏡へと風貌を変えていた。

「無性にパンケーキ!」
「作ればいいんだろ、服を引っ張るな」

この瞬間すれ違った。
彼等はフードを被った人間と。
彼は4人の人間と。
互いに振り返らず歩いてく4人と1人。
それは青白い月が鈍く光る日の事だった。


生命は生まれそして消える。
きっとこれは、そんな話。

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