割れる音。
目線を下にやれば見事に割れたカップ。
それも恋人のレイが『本当に気に入ってるの、デザインとか使い勝手とか』言っていたモノ。それだけならまだいい。最大の問題はその後に続いた言葉。
「…」
冷や汗が伝った。
『もう何処にも売ってないんだよね』
*
「天気がいいな」
「そうだね、洗濯「布団まで全て干し終えた、おまけに掃除も完璧だ」
「あ、ありがとう。じゃあ出掛「レイが行きたい場所に行くぞ、何か食いたいのがあるなら遠慮なく言え」
「…うん?というかどうし「ちなみに俺はすこぶる体調が良い」
「もー!最後まで言わせ「断る」
「こ、断らなくてもいいでしょ」
「断る」
変なリヴァイ、コーヒー飲もっと。そう言い残しキッチンへと移動するレイ。だが素早く先回り。両手を広げて進入禁止と言い張ってやった。
「どうして?」
「聞くんじゃねぇ、禁止は禁止だ」
「…あのさ、」
「あ?」
「物凄い冷や汗だけど…」
「問題ない」
「カップ割ったのなら知ってるよ?」
「!?な…ん、だと?」
だって見てたもん。ちょうどシャワー浴び終えて出てきたら呆然と立ち尽くしてたから。気にしなくていいよって言ったのに全然聞こえてなかったみたいだね。
「…………悪い」
レイはふわっと笑う。
「…何処にも売ってねぇとか、言ってたから」
「いいよ、むしろケガしなかった?」
コクリと頷く。
「…なら今日はお前が欲しいカップ買って、美味い飯食いに行くぞ」
「それなら行きたい店あるんだけどいい?パスタがすっごく美味しいんだって」
「……本当に悪かった」
「気にし過ぎ!ほら、早く支度しよ?」
恋人の優しさに柄にもなく泣きそうになったのは黙っておく。別れ話にいかなくてよかったと、今の俺は心底安堵していた。
No.23 最大のピンチ