朝露が太陽に光る。
ローゼンハイム家道場では朝っぱらにも関わらず厳格な雰囲気で満ち溢れていた。向き合ったエルヴィンとエレン。その2人を4兄弟と鼻ちょうちん出して立ち寝している爺ちゃんが見守っていたが、彼女であるレイは心配でたまらない様子だ。

「エレン…」
「ふごー…すぴすぴ…Zzz」
「「「…」」」
「…爺ちゃんは朝弱いだろ、許してやれ」

エルヴィンは竹刀を片手に既に戦闘態勢。しかしエレンは剣道なんかやった事もなければ竹刀を持つのも初めて。不利どころか明日の朝日が拝めない決定じゃねぇか…!どうしろってんだ何しろってんだ!?

「おおおお父さん!まさか、試合するつもりですか!?」
「あぁ」
「ヒィィ即答!死ぬ!即死ですよね!?そもそもやり方分からないです!!」
「こうやるんだ」

音も無く間合いを詰められた。
え?瞬間移動?
次はもう竹刀を振り下ろしてて…?
あれ?これ俺、死ぬ?

「!!!」

だが振り下ろされた竹刀が当たることは無かった。当たる前にそれは大きな音を立てて砕かれていたからである。反射的に閉じた目を開けると目の前にはエレンを庇う様にして立つレイが。高く繰り出した足がエルヴィンの頬真横に。もしかして…蹴りだけで竹刀を…?その真面目な目がすげぇかっこよくて。美少女イケメン。何故か恥ずかしくて顔が赤くなっていく。

この状況で不謹慎承知に物凄くキュンとした。

「さすが私の娘だな」
「いい加減にして」
「レイ、そこをどきなさい」
「どかない。エレンを傷付けるなら許さない。私が相手になる」

「ミカサ、落ち着きな」

入口では瞳孔が開きに開いたミカサがエルヴィンに弓を構えていた。ポンポンといつの間に起きていた爺ちゃんが肩を叩く。

「…振り下ろしたあの一瞬…変態じゃなくてお姉ちゃんに狙いを変えた、許さない」
「意図的だよ」

親ながらに娘がどれだけ強くなったか見たかったんだろうね。それだけのこと。怪我させる気なんてあの子には毛頭ないから大丈夫。

「…お爺ちゃんが…言うなら…」

渋々納得し弓を下ろした。

「そもそも」

一同の視線がリヴァイに集まる。
おかしいだろ。何であのクソ軟弱野郎は毎度毎度レイに守られてんだ。普通逆だろ。おまけにどうして女みてぇに照れてやがる。気持ち悪ぃったらありゃしねぇ。

「いや…待てよ?」

待て、手先が器用?料理が美味い?甘いものと可愛い物が大好きで、虫や怪談話が大の苦手?部屋がとってもファンシー?スマホはとんでもないピンクだった。

「…」

1人ペラペラペラペラ喋っているリヴァイ。ミケは黙って聞いていたものの正しくは腕を組みながらドン引きしていた。弟よ、お前そんなに喋れたのか。でも確かに同じ男に見えん。あ、手掛かりを組み合わせたら…もしかしてもしかしなくても?

「あ!あーなるほど!」
「わかった」
「間違いない」
「アイツは」
「「「「乙男」」」」

シリアスな空気を余所にやっと答えを叩き出した4人であった。

「ちょ、ちょっと…!」

レイの肩をやんわりと押し退けるとエレンの前に立ちはだかる。

「我がローゼンハイム家の家訓は『惚れた女は死んでも守れ』だ」

時には火の中、水の中、草の中、森の中、土の中、雲の中、あの子のスカートの中にだって飛び込む気迫を見せてくれないとね。

「君も男だろう?」

さてもう一度始めようか。次は容赦しないよ。新しい竹刀を持ってくると再び最初の位置に足を進め構える。

「守られてばかりの軟弱野郎に娘はやれないな」

死んでも、守れ。

「お父さん待って!ねぇいいんだよ?こんな事しなくていいか「…あそこまで言われて…黙って帰れる訳ねぇだろ」
「え…?」
「絶対認めさせる」

落ちていた竹刀を手に取りレイを真っ直ぐ見つめる。いつもの可愛いエレンじゃない。男気が溢れている。ど、どうしよう…かっこいい…。

「ほう、初めて感じる『気』だね」

かなり気合が入ってるように見られてるが勝算などまるでない。
それでもやらなきゃいけない時がある。
立ち向かわなきゃいけない時がある。
俺にとってそれが今だ。
勝てない相手でも最後まで戦…、ん?

「(あ、あれは…!)」
「ん?来ないのか?なら私から行こう」
「エレン逃げて!!」

また来た瞬間移動。
腕を振り上げた時がチャンス。
エレンは竹刀を投げ捨てポケットからとある物を取り出すと一気に姿勢を落とした。キュピーン!と目が光る。

「!何を、」
「お父さん」


『 必 殺 か が り 縫 い 』


「な…っ!?」
「フッ…道着がほつれてましたよ」
「ま、まさか…!私とした事が何たる失態を…!クッ…負けた…!」

ガクッと膝を付く親父。

「「「「」」」」
「エレン…エレンすごい!かっこいい…!勇者さまみたい…!!」
「「「「え?」」」」


*


「認めてくれた!」
「いや、その、交際まで認めたわけでは…」
「男に二言はないんでしょ?今度一緒に出掛ける約束なしにするよ?」
「あぁレイ!父さんが悪かった!…はぁ…わかった、好きにしなさい」
「エレンやったね!」
「あ、ありがとうございます…!」

「…お父さんの方が軟弱野郎」
「むしろ良くない?」
「良かねぇだろ」

だってあんな嬉しそうに笑う可愛いレイがこれから見放題だよ?彼氏乙男だけど。

「「最高」」
「でしょ?早速1枚撮っちゃえー!」
「孫バカとシスコン」

「エレン」

ちゅ

「!」
「ふふっ、これからもよろしく」
「こちらこそ!」

またジャンと3人でデートしようね!
青春は素晴らしい!
君がいれば何だって出来るさ!


End.

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