天気は快晴。
寂れた城、ウトガルド城。
壁外調査中、惹き付けられるように此処へ辿り着いた。陣形進路の軌道上にはあるが、今この場で信煙弾を撃ち上げたら混乱を招くのは分かっている。だから何もせずにレイは馬を降り手綱を引いて歩き出した。

「…」

そこには先客がいた。巨人が。
大型が2体、小型が1体。
巨人の1体がレイに気付いた。互いがゆっくりと歩み寄っていく。馬を軽く叩くと走り去っていった。賢い子、口笛さえ吹けばすぐに来てくれる。ブレードを引き抜いても巨人は捕食の欲を叶えたいが為に歩みを止めない。

あと数メートルもない距離に入る。
見下してきた視線。

「邪魔しないで」

アンカーが壁に突き刺さる音。
巨人が伸ばした手は空を切った。
次の瞬間ガクンと身体が揺れ項から血を吹き出しその場に倒れる。レイが手頃な場所に着地すると振動が伝わってきた。振り返ればほらそこに。大きな巨人。人形の瞳がゆっくりと向けられる。

「殺す」

立体機動装置の音、肉を削ぐ音はしっかりと聞こえるのにその音を出している人間の姿は見えなかった。それ程までに速いのだ。やがて小さな巨人を巻き添えに項を削がれた大型が地面に倒れ込んだ。

下半身が下敷きとなり上半身を動かす小型の側に降り立った。振り上げたブレードを振り下ろし息の根を止める。

「…」

ガシャン…!!

レイがその場に座り込むと装備していた物達がぶつかり合って大きな金属音が響く。鳥の鳴き声が聞こえたけれどあの日は聞こえなかった。生ぬるい風が吹いて頬を掠める。

「何処にいるの?」

ここにいるから見せて。
あなたの姿を。
返事はない。それでも問い続ける。

天気は快晴。
寂れた城、ウトガルド城。
私はいるのにウィユだけがいなかった。


*


『あっ…!ぁ、あぁ…ゃ…っ』

今は就寝の時間だがタイミングを外したのか寝付けなかった。多少外でも歩いていたら眠気が来るだろうと思い兵舎の廊下を歩いていたら聞こえてきた誰かの声。艶めかしくて熱を持った感じの。突き動かされたように足が勝手に進んでいく。誰か、じゃない。知っていて一番聞きたい声の人。

『そんなに出したら外に聞こえんぞ』
『だって…っそこ…ばっかり…リヴァイが当ててくる、から…ぁ…!』

部屋のドアは少し開いている。
見てはいけないのか、見ていいのか。そんな自問自答は最早無駄だった。隙間からそっと中を見る。

『ん、ぅ…っあぁ…!…っきもちい…もっと、いっぱい動いて…っ』
『は、望み通りにしてやるよ』

レイ兵士長がリヴァイ兵長と一緒にいる。ベッドの上。裸の2人は周りの世界には目もくれずに、口付けて求め合い愛し合っていた。耳を集中して傾ければ挿入された部分から水音が聞こえるくらいに激しく。

『ここ、弄られるの好きだよな』
『ぁんっ…!待って、急に…乳首さわっちゃだめ…っ』
『急だからもっと気持ちいいんだろ?』
『んっ!っはぁ…いじわる…ぁ、やっ!』

兵長の手が、ソレが蠢く度にレイ兵士長の濡れた唇から甘い喘ぎがこぼれ落ちていく。火照った綺麗な身体に容赦なく撃ち込まれていく快楽。もっと欲しいとせがむ熱でとろけたガラス細工の瞳。

「…」

俺の時には、欲しがらなかったのに。

『…ぁ…あ、リヴァイ…好き…っ』
『聞こえてる。俺もレイが好きだ』

俺の時には、好きと言わなかったのに。

「ふざ…けんな…」

俺はどんな気持ちで見ていたのか。紛れも無く怒りだ。確かに命令に背き兵士長を犯したが、彼女は酔っていたので覚えていなかった。それが幸いしてお咎めを受ける事は回避できたのに何だこれは。これなら全て覚えてくれていた方が良かった。兵長との交わりは事細かに覚えてるのに?俺は?求められもしなかった?記憶にすらない、だって?

「ふざけんなよ…!」

俺はまだ子供だから、この気持ちがどこまで抑えられるかわからなかった。


*


「…リヴァイ…?」
「ん?」

唇にやんわりと唇が当てられる。

「ずっと…ドア見てたの?」
「まぁな。何も無かったが」

聞いてきたレイは知らない。
エレンが見ていた事を。あのガキも俺が気付いていたのは知らないだろう。単純、だがこれからは一切の油断も許されない。エルヴィンもミケも、そして俺も確信しているがアイツはきっとまた動く。

「明日も早い。もう寝ろ」
「ん…」
「おやすみ」

閉じていく瞳をじっと見つめる。
今日の壁外調査の途中、陣形から外れ勝手にあの場所へ行ったと本人から聞いた。どんなに呼び掛けても返事が無かったの。見えないだけだから私の声は聞こえてる筈なのに。

悲しみの限界を超えると人は人形になる。

「レイ…ウィユは、」

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