そうか、まだ見つからぬか…
全て私共の不徳の致す所です。
そなた達は良くやっている。引き続き手法を駆使し捜索を続けよ。
御意。


*


家主がいないレイの屋敷。
帰ってきた時に蜘蛛の巣が張ってたりでもしたらあの黒狐が騒ぎ立てるよね?ハンジは同僚2人を伴って時折掃除に来ていた。
いつもなら癒される笑顔で出迎えてくれるのに。それが見れなくなってもうどれ程?ひと月は間違いなく経った。親戚3姉弟は彼女がいなくなった事に落ち込んでいるらしくエレンに至っては大好きな蹴鞠すらしていないらしい。箒を掛け終えた渡殿を眺め深々と溜息をついてしまう。

一段落ついた彼等は部屋に集まった。
レイが点てたお茶飲みたいな。

「…思ったんだが、」

現在分かってる事、2人は生きている。ただ久遠ではない場所で。還魂の術をすれば魂が術者の元に還ってくるが反応はなかった。久遠でないなら何処に?あらゆる捜索の術をしてみても手掛かりすら掴めない結果。気配すら感じられなかったのだ。

「レイ達は違う次元にいるんじゃないか?」

ミケの呟きに目が点になる。
すんすんしていたと思えば何を唐突に。

「違う次元?」
「…え?へ?何それ海渡った西洋とか東洋にいるとかじゃなくて?」
「それならもう見つけてる筈だ」

恐らく俺達の術が及ばない場所にいる。
そう考えるのが妥当だろう。理由は知る由もないが生きている以上見つけるしかない。

「ちょ、おぉぉ…!次元違うとか…ここまでデカい話だったとは予想外…!まぁでも」

やるしかないよね。帝直々のお達しだし。
それにエレン達の為にも。
エルヴィンとハンジの式神を使うには…色々な意味で無理がある。それならとミケは短刀で指を切り印を結び終えた手を床に置いた。

「陰陽道 召の式・初花」

現れたのは真っ白な着物を身に纏い、黒髪の長髪を持った美女。恭しく3人に頭を下げた。

『何なりと』

ミケは簡潔にレイ達の旨を伝える。
次元の狭間で2人を探してきて欲しいと。妖怪でありながら非常に献身的で知られている彼女はすぐに了承した。しかし次元移動となると妖怪だけの妖力では足りず術者達からも分けて貰わなければならない。

「気にせず使っちゃって!」
『感謝申し上げます。それでは、』

初花を三角の形で囲む様にして立つ。
見つけられるかは分からないがもうこれしか方法はない。制限時間はこちらの妖力が尽きるまで。3人が印を結び一斉にパン!と手を合わせた。

「「「散」」」


*


調査兵団兵舎。
すっかり自室となった部屋でレイは慣れないペンと格闘しながら手紙を書いていた。もちろん久遠の皆に。此処から届く訳ねぇのに書く意味あんのか?お土産です。

「兵服持ち帰った方がよっぽど土産だろ」
「良い事言いますね」

相変わらずベッド上の布団を丸々と占領しているヒトガタのリヴァイ。帰れる予兆は一切なく刻一刻と日は過ぎていく。俯せに寝転がりしばらく足をフラフラ揺らしていたがふと動きがとまった。気配?

「妖怪の気、ぐっ!」『きゃっ…!』

その時空間に穴が開き真上から誰かが落ちてきた。見事背中で受け止めたリヴァイは布団に突っ伏し潰れている。慌てて悲鳴の主が起き上がりベッドから降りた。

『…レイ様?レイ様…!あぁやっと見つけました!』
「お前…初花…?」
『九尾様…!さ、先程はとんだご無礼を』
「それはいい。次元の術式だな」
『はい』

『いた、いたー!!レイ!!!』

突如初花から出される声がハンジの声に変わる。長らく聞いていなかった大切な友人の声。思わず声を上げてしまった。

「ハンジ!じゃあ…ミケとエルヴィンも?」
『探しに探した。無事なのか?』
『レイ、声を聞けて嬉しいよ』
「…2人共…!えぇお陰様で、調査兵団の方達に良くして頂いてます」
『『『ちょうさへいだん?』』』
「とりあえずテメェ等に瓜二つの連中が腐る程いるってことだ」
『ぶはっ!何処いても変わんねぇふてぶてしさだな!』
「黙れクソメガネ」

何を話そう。でも迷ってる暇はない。向こうの妖力が尽けば強制的にこの術は切れてしまう。その証拠に段々と彼等の声が遠くなり、初花の姿が薄くなってきた。

「皆様に私は無事と伝えてください」
『わかっ た』
「エレン達には帰ってきたら美味しいご飯たくさん作ります、心配かけてごめんねって」
「作る必要な「リヴァイ」
「聞こえねぇ」
『う ん、伝 え  とく!』
『それ まで身体 に十分気をつけ ろ』
「はい。みんなも、」

レイが言い掛けた所でミケの式神は跡形も無く消え去っていた。何も無い。

「…消えちゃった」

試しに窓を開けたってこちらの世界のいつもの日常が流れているだけ。そのまま力無くベッドに腰掛ける。しばらく深呼吸をしていたが急に寂しくなってきた。笑いながら軽く目元を押さえる。

「どうして泣いてるんだろう」

すると膝の上に小さな黒狐がちょこんと乗ってきた。

「え…?」
「毛繕いの時間だ」
「…ふふっ」
「ふわふわだぞ」
「…そうですね、ありがとう」

リヴァイなりにレイを元気付けようとしてるのがしっかり伝わってきた。もう一度礼を述べて彼の背中を優しく撫で始める。

「帰れたら一番に何をしますか?」
「油揚げ」
「言うと思った」
「お前は?」
「リヴァイを水浴びさせます」
「言うと思った」

やっぱり我が家が恋しくなるね。
今日は泣こう、もう少しだけ。

- ナノ -