俺がこの子の名前を?
あぁ、付けたがっていたろ?
…実は…もう決めてるんだ
(ヴァルトの言葉で守護者を意味する)

「ウィユ」

呼び掛けに視線を投げた。
馬を走らせていると目的地がある南の方から緑の信煙弾が上がり西方向からは巨人が2体、変な走り方で向かってくる。

「私はアレを片付けてから行く。東の古城にいる兵士達と合流してから目的地に行って」
「了解」
「気を付けてね」
「大丈夫、また後で」

馬が一斉に左右に別れていく。
振り返らなかった。
また会える筈だったから。


*


ウトガルド城の高い見張り台にワイヤーを巻き取りながら着地する。頬に飛び付いた巨人の血が蒸発していくのを感じた。此処に着いた時にはもう手遅れ、生存者は1人もいなかった。いたのは未だ人肉を求めてうろつく6体の巨人。残っていたのは荒れに荒らされた城外城内、それと多くの血の跡だけ。

「…馬は望み薄か」

先程倒したのは3体。
馬は怯えて逃げてしまった。口笛を何度か吹いているも来る気配は今の所ない。見張り台に手を付いて遥か下を眺める。

「あと3体」

ガスと刃も連戦続きだったので残り少ないが、何もせず救援を待った所で絶望的な状況には変わりないし何より性に合わない。
見上げてきた巨人。落ちてくるのを待っているみたいに両手を伸ばしている。

足を掛けた。
約束した。一緒に生きようと。
約束した。支えて守ると。
助走も付けずに飛び降りる。
ブレードを振り翳しそのタイミングを待つ。あともう少し、もう少し…今だ。

「まとめて相手してやる」

横に薙ぎ払ったブレードが巨人の指を切り落とす。バランスを崩し剥き出しになった項にアンカーを突き刺し、ブーストを掛けて一気に削ぐと砂埃と大きな音を立てて倒れた。
休んでる暇はない。近くにいたもう1体が勢い良く振り下げてきた手を交わし腕に飛び乗りる。その上を走り項を直接削いだ。倒れる際の巻き添えは御免なのですぐに飛び立つも…

「おっと」

どうやら最後の1体の目の前に着地してしまったみたいで。のっそりとした動きでこちらを捕まえようと手を動かしてきた。同時に笑った顔も近付いてきたので弓を構える。矢を引き絞れば時が止まった気がした。そうだ、立体機動よりも弓の方が速いってこと。

「知ってた?」

矢が放たれ姿が消える。ヒュッと何かが通り過ぎるような。それしか分からない。ものの数秒後、一際大きい斬撃音を残し屋根の上に降り立つともう一度口笛を吹く。此処にいる巨人は全て片付けたがその目は未だ鋭いまま一点に向けられていた。

「…ずっと気がかりなのは…」

この城に来た時からいるあの巨人。
獣みたいな体毛で覆われていて15m…いやそれ以上ある。あんなのは初めて見た。人間の自分がいるのに襲い掛かるでもなくああやって歩き回ってる辺り…他の奇行種と変わりはないんだろうけど。

「さて、どうするか…、!」

遠巻きから馬が走ってくる。
どうやら救援を待つ必要はなさそうだ。

「早々伝達を、」

だが獣の巨人の横を馬が走り過ぎた時、それはいとも簡単に持ち上げられた。
どうなってる。有り得ない。

「…馬を…狙った…」

次に容易く握り潰されたそれが物凄い速さでこちらに投げ付けられてきたのはそれから瞬きするかしないか程の出来事。

「!?」

何とかアンカーを出し直接当たる事は避けられたが、馬が屋根にぶつかった衝撃で飛んできた煉瓦にこめかみ辺りの皮膚が深く抉られる。バタバタと流れてきた血が目に入り視界が不鮮明になったせいで着地出来ずに踏み外してしまった。

「っ…!」

何秒と経ったのに落ちていない。
一瞬で何が起きたのか察する。

自分は今、獣の巨人の腕の中にいた。

見上げていけば大きな瞳と目が合う。
身動きが取れないので出来ることは何一つ無い。痛みと出血の多さでだんだんと意識がぼんやりとしてきた(喰わ、れる?)
それなのに何もしてこない。

『ヴァルト族』
「!どう、して…それを…」

…言葉を…話した…?
驚きを余所に獣の巨人は話す。
こんな所で会えるとは。
懐かしい我々一族の名。お前は誰かに似ていると思ったらクレマンスだ。

『そうか…お前がウィユか』


一族の偉大な英雄にして反逆者


「…まさか…!」
『同族を殺す趣味はないが』

会えて良かった

手が開かれ身体が真っ逆様に落ちていく。
ブレードを引き抜きトリガーを押すもガスは既に無くなっていた。

『許せ』

為す術なく落ちていく身体。
最初からこんな。
こんなすぐ側に探していた真実は、


*


目的地には多くの兵士が集まっていた。馬から降り周りを見回すがいない。別れた場所から此処までの距離は私より断然短かったはず。嫌に逸る気持ちが溢れる中で見知った背中を叩いた。

「ねぇミケ…ウィユを見なかった?」
「俺は見てな「報告します!」

突然の伝達に注目が集まる。

「ひ、東の古城で巨人が多数発生により部隊が壊滅したとの事です!」

ひがし?かい、めつ?

「レイ!」

それを聞いた時にはもう馬に跨り走り出していた。手綱を打ち付け無理矢理にでも速度を上げさせる。

「リヴァイ!お前も来い!」
「1人で行きやがって…!」

大丈夫。大丈夫だから。
今行くから待ってて。
(私が絶対に助けるから)


いつか誰かを支え守れるように。
それでウィユか…いい名前だな。
えぇ本当に、素敵ね。

ありがとう、ジーク

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