「レイ!」

今日は中務省より久しぶりの暇を貰ったので朝から屋敷の掃除をしたり、大暴れして嫌がるリヴァイを水浴びさせたりと大忙し。やっとやる事を終えてヒトガタの彼とのんびりお茶を飲んでいると3人の子供達が風呂敷を持ってやって来た。

「いらっしゃい」
「お邪魔します!」
「邪魔すんなら来んな」
「リヴァイ」

聞こえねぇ聞こえねぇ。
最悪な1日が始まる。
ミカサ、エレン、アルミン。
このクソガキ3姉弟はレイの親戚。だから苗字はローゼンハイム。両親は言わずもがな陰陽師で多忙を極めた時にこちらの都合が合えば面倒を見ていた。すこぶる不本意だが。何故かって主と過ごす時間が潰されるからだ。

「お狐様!蹴鞠しよう!」
「しねぇよ」
「エレン、この狐は蹴鞠を落とすのが怖いの。下手くそだから」
「上等ださっさと貸せ」

たかだか数十年しか生きない人間共の遊びに妖怪が負けるわけねぇだろ。つまり遊びでも俺が最強。レイはまだ小さいアルミンを膝の上に乗せ「売り言葉に買い言葉ですね」と呑気に笑っている。クソが、その膝の上は俺の特等席だってのに。

ミカサは姉弟の中で1番陰陽師の素質があるらしい。確かに妖力は常に安定しているし多少難しい術でも難なく出来る所を見れば一目瞭然。しかし性格に難有り、以上。
アルミンは甘えん坊。年齢的に妖力は微々たる量しかなくまだ術は使えないが、術式を把握する速さは異常だ。このまま成長すればいつか化けるかもしれない。
エレンはただの蹴鞠馬鹿、以上。

「だれが勝つのかな?」

見上げてくる大きな瞳。
みかさ?えれん?おきつねさま?

「また大人気ないお狐様かもしれないね」
「がんばれー!」
「エレンとミカサ頑張って」

蹴鞠を蹴ろうとした足が思わず止まる。
違うだろ言う事が。違うだろ言う相手が。

「俺の応援はどうした」
「最強だから必要ないかと」
「応援されない狐」

鼻で笑われたことに禍々しい妖気がリヴァイから溢れ出す。レイはやれやれと苦笑いしながら溜息をついた。遊びなのにここまで本気になっちゃって…これじゃどちらが子供なのかさっぱり分からない。

「 纏 め て ぶ っ 飛 ば し て や る 」


*


夕陽が屋敷の中に入り込んでくる夕刻。すうすうと仲良く寝息を立てる3姉弟にそっと布団を掛けていく。あれから遊びに遊んですっかり疲れ切ったのか夕食前にこうして寝てしまった。

「…」

一々挑発に乗ってしまい全ての遊びに付き合ったリヴァイはレイの膝に頭を乗せ無言のまま寝転がっていた。疲れてて話せない、というわけではなさそうだ。

「機嫌が宜しく無さそうですね」
「あ?」
「触らぬ神に祟りなし」

髪を撫でようとした手を軽く振り払われる。話し掛けても無視するのに膝から退こうとはしない。理由がちゃんと分かっているレイはまた髪に触れる。何度かしているうちにほら、振り払いもせずに大人しくなって撫でさせてくれた。子供達ばかりに構っていたから拗ねてるのだ。

「夕食は何にします?」
「いらねぇ」
「椿屋の油揚げありますよ」
「食わねぇ」
「エルヴィンに頂いたお茶美味しかったな」
「知らねぇ」
「今日お風呂一緒に入りませんか?お湯なら平気ですよね」
「入る…おい」
「何です?」

掴まれた腕。
不機嫌そうに眉間に皺が寄っている。

「茶化すのは止めろ」
「会話をしてるだけですけど」

リヴァイの反応が面白くてレイは小さく吹き出してしまった。拗ねた彼を構うのは楽しい。こういう時の主導権はいつも彼女。

「強くて優しい」
「いきなり何言ってんだ」
「いつも守ってくれる」

うるせぇ。横槍が入っても言葉は紡がれていく。時に屋敷を汚したり悪戯をしたりして…こちらが多忙なのもどこ吹く風で困らせてくるけれど。あなたと過ごす毎日はとても楽しい。九尾の姿であっても子狐の時でも好き。ふわふわな毛皮を触れるのは私の特権。

「本当にうるせぇぞ」

ね?そうやって照れた顔するあなたの事も私は好きなの。

「あとは砂糖と塩を間違える所も」
「レイ」
「全部大好きですよ」
「っ…このクソ野郎が…!」
「いつものリヴァイになった」

彼の額に口付けてから立ち上がる。
そろそろ夕食の準備をしよう。
子供達もいるから張り切ってたくさん作らないと。今日はあなたも手伝ってくださいね。未だに若干照れているリヴァイの手を引いて廊下へ出る。

「大丈夫?」
「誰のせいだと…」
「甘いのは?」
「塩」
「しょっぱいのは?」
「砂糖だなめんな」
「ふふっ」

幸せだ。
きっとどちらも思ってる事。
さぁ、何を作ろうか?

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