夕刻。
調査兵団の前には馬車が待っていた。貴族主催のパーティーは幹部達が呼ばれているが、特例の新兵という響きが金持ちには気になったのかレイの補佐官も招待されていた。しかし前々々々々日以上前から6時には出発すると何度も言っていたのに来ない。来る気配すらない。

「ほ、本当にごめん…!呼んでくる!」

豚共に付き合うのは反吐が出るものの時間を守るという事になれば話は別。エルヴィン達に謝罪してから1発殴らなければ気が済まないと言うリヴァイも連れてレイは兵舎内へと戻っていった。

「クソでも漏らしてんじゃねぇのか?」
「まさ「入るぞ」

部屋に着きノックをする前に同僚が無遠慮に開けてくれた。そこにはジャケットを布団代わりにベッドで大の字に寝てる補佐官が。直前まで職務をしていたのか辺りに書類とペンが散乱している。さっそく頬を軽く叩くがますます寝息を立てるだけだった。

「「…」」
「…うえへへ、もう食べれ…ないってば…むにゃむにゃ…」
「ウィユ!寝言はいいから起きて!」
「レイ」
「え、!」

リヴァイが散乱した書類をまとめ補佐官の顔へと振り下ろした時、物凄くイイ音が調査兵団に響き渡った。


*


立食形式のパーティーは何処も彼処も煌びやか。目に痛い。

「…話し好きにも程がある…お!」

緊張も何もしていなかったがここまで囲まれに囲まれるのは初めてで、さすがに耳が疲れたと飲み物を手にして彼女が向かった先は遠くに1人でいたリヴァイの元だった。グラスの中身を一気に飲み干しテーブルに置く。

「たかが壁1、2枚隔てた世界の話しがそんなに珍しいのかね」
「コイツ等は何も考えちゃいねぇからな」
「みんなは?」
「各々捕まって話でもさせられてんだろ」

そういえば確か…さっきまで皿に大量の料理を載せてコレは私のだから絶対食べるなとか言っていたがもう食ったのか?事如く女らしさの欠片もないヤツだ。

「ねぇチビ」
「何だ殺すぞ」
「分隊長ってさ、何処かほっとけない感じしない?」

細くて小さいから。
視線を辿ればレイが同い年くらいの貴族と話しているのが見えた。ほっとけない…言われてみればそういう要素はあると思う。強くてちゃんと仕事も出来るのに不思議だよね。補佐官がしっかりしないと。誰もお前に言われたくはないだろう。そろそろレイの話は一旦終わり。話題を変えると言えばどんな話題?という顔付き。

「お前、本当は何が目的だ」

外の世界に行きたかったから。それだけの理由なら調査兵団に入らなくてもいい筈だ。それに元々運動神経が良いにしてもあそこまでの動きは新兵には出来ない。その他にも気になる行動が幾つもあった。兵団にとって脅威になるなら排除しなければならない。

「…」

かち合った目はあの時と同じ。狼のような目。しばらく無言だったが分かった分かったとあっさり降参した。

「一族の偉大な英雄にして反逆者」

そう呼ばれた男を探してる。
視線は互いに前を向いたまま。

「立体機動は…実は昔から知ってた」
「昔から?」

そ、小さい頃から狩りと一緒に叩き込まれてね。その時はどうしてこんな変な機械が自分の一族にあるのか、どうして年老いた長老達が使い方知ってるんだろうとか深い所までは考えもしなかった。

「そいつは巨人化出来るらしくて…巨人と一番密接してる調査兵団に入れば色々調べられると思ったんだ」
「見つけてどうする」
「殺す」

全部内密に指示された事。まぁ巨人なんてごまんといるし、与えられた情報もすこぶる少ないから私が生きてる間に見つけるのは不可能に近いだろうけど。

「そしたらまた誰かが受け継ぐんだろうね」

私もその『受け継いだ誰か』の1人だから。とりあえず調査兵団の害になるような事はしてないからそれだけは信じて。嘘を言ってる目ではなかった。

「ウィユ」
「ん?」
「レイを裏切ったりはしてねぇんだな?」
「するわけないじゃん」

こういう理由があるから人と馴れ合うのは止めとこうって思ってた。それなのにいざ入団したらみんなして敬語使えだなんだ説教してくる。かと思いきや気遣ってくれたり優しくしてくれたり。コロコロ変わる忙しい人達。

「分隊長にさ、」

この前の壁外調査終わった後によく頑張ったねって言われたんだ。補佐官なんだから当然の仕事をした迄だと返したら、それでも言わせて?いつも支えてくれてありがとう。これからも頼りにしてるよって。その言葉が。

チラと隣を見た俺の動きは止まる。
その時ウィユは少し恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに笑っていたから。

「すごく…嬉しかったなぁ」

しかし、貴族とレイが向こうから歩いてくるのに気付けば一瞬で目の色を変えて食ってかかる。

「ねぇ、誰の許可得て口説いてんの?」
「ちょっと…!」
「こちらの方は?」
「わ、私の補佐官で「さっさとその手離してくれるかな?この変「敬語!!」
「無理」

2人揃って忙しいが悪くはない。
黙ってやり取りを見ていたリヴァイはほんの小さく笑っていた。

- ナノ -