「今日もいい天気」

ふわりと笑って本のページを捲るのはレイ・ローゼンハイム様。天気がいい時にはこうして木陰で本を読んでいる。彼女に仕える俺は姫様のことが好きだった。恋愛対象として。

「姫様!!」
「どうしたの?」
「好きです!」

声がデカイのは生まれつき…そんな事は今どうでもいい。かなりダイレクトに伝えた。好きだと。レイ様はしばらくポカンとして俺を見ていたがやがてパッと明るい顔になられた。今日こそ!今日こそ来い!

「あなたもこの作品が好きなのね」
「はい!?」
「エレンもファンタジーを読むだなんて初めて知ったわ」

それなら早く教えてくれたら良かったのに。でもごめんなさい、今すぐ貸してあげたいんだけれど初巻は姉様が読んでるの。だから終わったら渡すように伝えておくわ。まるで違う解釈をしてくれた彼女はさっきよりも御機嫌な様子で再び本を読み始めた。

「実は魔法使いの主人公が…あ、まだ読んでないのに言うだなんて私ったら…!」
「い、いえ…お気になさらず…!」

撃沈。鈍感にも程がある。
それなら確実に伝わるように『あなたが好き』と言えばいいのにって思われるだろう。言ってる。前に言った。すげぇ恥ずかしいのを堪えて言った。

レイ様が好きです!(恋愛)
私もエレンが大好き(家族愛)

撃沈。確かに俺は姫様の御家族も好きだ。旦那様も奥様も、お姉様だって優しくて昔から良くしてもらってる。けれどそうじゃないんです姫様。この垣根が物凄く高くて届かない。それなら他の伝え方があるって?出来たらしてるってんだよ恥ずかしいんだよ。

「大丈夫?体調が悪いなら中で休んで?」
「お、お気遣い感謝致します!ですが何も問題ありません!」
「ふふっ。ねぇ、こうして2人でいると」

デートみたい。
レイ様が照れたように笑う。
この城を出る事は滅多にないから一緒にいるとたまにそんな気分になるの。といってもあなたは私に付き合ってくれてる立場だから申し訳なさもあるんだけどね。

「!」

風に靡いた髪がそっと指先で整えられる。
綺麗な目。エレンの目の色好きよ。
優しくてかっこいい所も。

「モーニングコールはいつもあなたの朝の第一声『おはようございます』だよね」

それで城のみんなが起きるんだもの。
おかげでお寝坊さんが1人もいない。
包み込むような笑顔。
いつかこの笑顔が俺じゃない人に向けられる日が来るんだろうか。来ないで欲しい。でも幸せになって欲しいのも事実だ。

「…レイ様は好きな方、いらっしゃるんですか?」
「好きな…?特にいないけど」
「前の舞踏会で仲良さそうに…いえ!すみません何でもないです!」
「あぁ…彼のこと?」

パタン。本を閉じて紅茶のカップを手に取った。いつ飲んでも美味しいわ。徹夜で淹れ方を猛勉強したのは誰も知らない秘密。

「もしかして婚約者とでも思ってる?」
「あ…その…」
「彼は幼馴染み。互いに恋愛感情なんてないわ、気兼ねなく話せるってだけ」

そうだったのか。
なぁ、俺は何年待った?何年想ってきた?
もうそろそろいいだろう。
恥ずかしいのはある。今でもハッキリ言えるかどうか怪しい。それでもレイ様が俺をどう思ってるかを改めて知りたい。ガシッと両肩を掴んだ。行け俺、言え俺!!

「エ、レン…?」
「レイ様!」
「どう…したの?」
「好きです、結婚します」

………
……


やっちまった。
結婚したいですだった。
それも違ぇだろ。緊張し過ぎて色々すっ飛ばした内容を誤送信。

「結婚、」
「あー!!今のは忘「まぁ…!エレンが?おめでとう!教えてくれたのは私が1番?」

立ち上がり城内にいる父様の元へ急ごうと俺の服を引っ張った。

「ほら立って?早く早く」
「ち、ちち違うんです、これは!」
「母様にも姉様にも伝えなきゃ!ローゼンハイム家総出でお祝いね。さぁこれからパーティーに式に忙しくなるわよ」
「ひ、姫様…!」



「…好きです(恋愛)」
「私も大好き(家族愛)」
「チクショォォ!!!」

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