「…もう終わりか?」

真っ白な身体には幾つもの噛み跡。
うっすらと出血している箇所もある。
何度も攻められたせいで苦しそうな喘ぎになっているレイを見つめるリヴァイの目はまるで氷。静止の声も聞かずに再び肌に噛み付きながら律動を続けた。前戯も無しに宛がわれたモノが生き物みたいに動いている。

「っはぁ、はぁ…っあぁ、ぁ…!」
「そんなんじゃねぇだろうが」
「んぁっ、ぁ、ごめん…っなさい…もう、あっ…や…めて…っ!」
「謝る暇があったらアイツ等にどう啼いたのか聞かせろよ」

突かれる度にシーツがずれてもう半分以上はベッドから落ちていた。深く皺が刻まれたそれは今迄の行為の荒さを物語っている。開かれた脚を掴み更に開いて奥へ奥へと。俺のしか感じられない様に。

「い、た…っ!痛い…っいや、いやぁ…っ!」

ついでに皮膚の薄い場所に強く噛み付けばレイの目から再び涙が零れる。それでもお構い無し。だって滲む血すら今の彼にとってはただの興奮剤でしかないのだから。

「あぁっ!んっ、は…ぁっ…」
「そう啼いたのか?」
「ぁ…リヴァイ、お願い…っやめて…」
「違うなら啼くまで付き合ってやる」
「やっ、ぁんっ!っは、苦し、い…の…っ」
「だから何だ」

前屈みになるも律動の速さを落とし瞳を見つめる。術なんざかけねぇのに怯えた顔しやがって。気に喰わない気に喰わない。

「んっ、ん…っあ…」
「急に遅くなったから物足りねぇな、で?どうやっておねだりした?」
「っし…てな…い…!」

本当だと言う声が素通りしていく。やめてとレイに懇願されればされる程自分から離れていく気がして。そしてまた本能のままに攻め立てる。これだけやれば分かっただろうか。いや、こんなんで分かる訳がない。
だからやめてだ何だ言うんじゃねぇよ。
今与えられてる痛みですらもっと欲しいと言え。そうじゃなきゃおかしい。いつも俺の事を好きと言ってくれるんだからそれくらい何て事無い筈だろ。なのに嫌だ離してやめて、拒絶の言葉ばかり。

「…ふざけんなよ…」
「っまた…ぁ、あっ…だめ、っだめ…」
「お前は俺のものだろうが…!」
「リヴァイ…っ」

(大丈夫、あなたへの気持ちはずっと変わらない)

ハッと動きを止めた。

「はぁ…っ…はぁ…」

どす黒い気持ちが跡形も無く消えていく。
視線だけを下に動かせば自分によって組み敷かれ乱暴にも近い形で抱かれているレイ。無理矢理に泣かして、怯えさせて、痛め付けたのだ。知らない男に抱かれたという事実の認識が違う方へと醜く暴走して。
我に、返った。

「…レイ…」
「ん…っわたし、は…大丈夫…」
「大丈夫じゃ…ねぇだろ…」

たくさん噛まれて痛かったけど…小さく笑うレイを今度は優しく抱き締めた。壊れないように痛くならないようにそっと。自らがこうしたとはいえ無数の噛み跡。涙の筋。脱力した細い身体。やってしまった。

「悪かった」

一方的に感情をぶつけては話も聞かずに。好きだから止まらなかった。それが言い訳でもあり、理由でもあった。首筋に顔を埋め目を閉じると大好きなにおい。

「…ごめんな」

身体を起こしても離れたくなくて抱き締めたまま。最初からほら、いつだってレイは俺の隣にずっといてくれたのに。

「…俺は、妖怪だから」
「リヴァイ…?」
「お前がいつか人間を好きになるんじゃないかってずっと不安だった」

そうしたら離れなければいけない。
でもそんな日なんか来て欲しくない。

「だから、っ」

その時ペシッ!と軽く頬を叩かれる。

「…馬鹿」

確かにあなたは妖怪、私は人間。
だから何?私はあなたが好きなの。
変わらないって言ったでしょう?
他の人を好きになるわけないじゃない。

「…」
「本当に…馬鹿なんだから…」
「…そうだな」
「リヴァイ、大好き」
「…」
「ふふっ、顔が少し赤いですよ」
「……俺だって照れる時くらいある」

お返しと言わんばかりに額に一つ口付け。

「あなたも…ずっと?」
「あぁ、ずっと。お前だけが好きだ」
「なら…喧嘩してた訳じゃないけど仲直りだね」

長い時間裸でいた身体は少し冷えていた。仲直りしたとはいえ俺が反省すべき点は多い。だから目の前で着替えをしようとしてるレイを見て再び元気になりそうだとは口が裂けても言えなかった。素知らぬ振りをしながら着物を着込み、目を逸らして『さっさと萎えろ』と自分『自身』に言い聞かせる。
そして一番効果があるのは大好きな妖怪を目の前にして興奮するクソメガネの顔を思い浮かべることだ。奇声を上げて騒ぎ立てる姿はただただ気持ち悪い。…よし、これ以上萎えなくていいくらいに萎えた。
と思っていたのに。

「…あの、リヴァイ」
「ん?」
「これが…上手くいかなくて、後ろから付けてもらっていい…?」

振り向けばレイは座り込み、ぶらじゃーを肩に掛けた状態で俺に背中を見せていた。それ以外はまだ何も纏っていない。長い髪をかき上げているので項までもが見える。

耐えろ。

「付ける?どうやんだ」
「引っ掛けるらしいんですけど…」

耐えろ、耐えろ。

「引っ掛ける…引っ掛け…こうか?」
「かな。…ん、ありがとう」

耐え…ろ。

「大丈夫…?顔がさっきよりも赤い…」
「何も無い、大丈夫だ。!」

悪戯に笑って頬に口付けられた。
嗚呼これは。

「何も無いの?ふふっ、うそつき」

してやられた。

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