「随分と落ちぶれた場所だな」

簡単な呪術にまんまと引っ掛かり倒れて眠っている男達を尻目に辺りを見回す。簡単に言えば洞窟内に街がある感じか。好き勝手出来そうだが一言で空気が悪い。好き好んで此処にいる奴等の気が知れなかった。狐からヒトガタになったリヴァイは軽く着物を叩くと歩き出す。

歩く度に視線、視線、視線。
そんなに珍しいのか、着物が。
西洋の言葉を借りれば久遠で着物は『おーそどっくす』なんだが。そして時たま聞こえてくる『調査兵団の…』という呟き。あのガキと瓜二つだからそう言われるも無理はないが別段何も嬉しくはないし迷惑なだけだ。舌打ちで返しておいた。

「しかしどいつもこいつも…」

低俗な目をしてやがる。
足は止まらない。
においは段々と強くなっていた。

「こんな腐り切った場所にレイを連れてきたのか」

歩き続けていたリヴァイの足はしばらくして1つの家の前で止まる。傍から見る分には何の変哲もない家。間違いない、此処だ。

「…」

ドア越しの気配。
1…2、3…中にいるのは4人。
手を掛ければ鍵等はかかっておらず簡単に開いた。雑談をしていた男達の視線がすぐに集まる。部屋全体に残っている性のにおい。

「誰だお前。…あぁもしかして」
「屑ながらに記憶力はそれなりか」
「思い出した、あの時の男の子」

1人の男がこちらに近付く。

「レイが此処で随分と世話になったな」
「どうして分かっ、」

手を伸ばしてきた男の手から赤い鮮血が舞った。振り上げたリヴァイの手に握られていたナイフ。

「ほう、初めて使ったが手軽でいい」
「っテメェ…!」
「まぁ待て」

痛み任せに殴り掛かろうとした男を主犯であろう男が制した。

「坊やも馬鹿じゃない筈だ」

多勢に無勢くらい分かるだろ?
(嗚呼、どうしようもねぇな)
(これだから人間というものは)
リヴァイが切り付けたナイフを投げ捨てると、落ちたそれは床に点々とした血の跡を作り出した。

「こんな所に1人で来て生きて帰れると思ってんのか?」

視線を動かす。
椅子に座ってるのが2人。
床に座り込み蹲ってるのが1人。
そして目の前にいるのが1人。
全員と目が合った。

「おい聞い『待ち受けるは背丈が四由旬、六十四の目を持ち火を吐く奇怪な鬼』
「…何言ってんだ」
『舌を抜かれ百の釘打たれ、五百億匹の毒虫、八万四千匹の大蛇に責め苛まれ』
「このガキ…!」
『燃え盛る果てなき熱鉄山を上り下り』
「うるせぇな黙れ!っ!?」
「どうしようもないお前等の為に俺が良い場所に連れて行ってやる」

男の頭を鷲掴み無理矢理に引き寄せると瞳を覗き込む。殺す価値も死ぬ価値もない。
リヴァイの瞳が赤くなった。

『八大地獄最下層 無間地獄』

「ぁ…何だこれ…あ、あ…ぁ゛あ゛あ゛!」

手を離すと男達が一斉に叫び声を上げた。
見えない場所に向かって何かを追い払うような仕草。部屋の中を逃げ回り、走り、のたうち回っている。リヴァイなんか見えていない、彼等は今無間地獄にいるのだから。実際には瞳術による幻覚だから死にはしないが。
さて、帰るか。
うるさい声を背にドアを開けた。

「あ゛ぁぁあ゛ぁあぁ゛!!!」
「349京2413兆4400億年その苦しみが続くだけだ、せいぜい楽しめ」

言っただろ?目を合わせるだけで術をかけられると。あぁそうだった。

「お前等には言ってなかったな」

黒狐が楽しそうに笑った事は誰も知らない。


*


兵舎に戻り部屋に入るとお帰り、後はあなたが側にいてあげてと。長い時間付き添ってくれた眼鏡に礼を述べる。レイは上半身だけを起こし呆然と俺を見ていた。だがすぐに瞳からポロポロと涙が溢れ出す。何も言わずに抱き寄せた。

「ごめんね…っ本当にごめんなさい…」

レイのにおいがする。
こんなに強く抱き締めるのは初めてかもしれない。小さな子供のように抱き着いて離れないレイの額にそっと口付けた。

「もう大丈夫だ」

ひとしきり泣くと幾らか落ち着いたらしい。

「皆さんにもご迷惑を…」
「悪いのはアイツ等だろ」
「…殺し、たの…?」
「…」

価値のある奴しか殺さない。そんな節操ない殺しなんかするか。それよりもやっぱり気に喰わない。腹が立つ。腹が立って仕方ない。ベッドに乗り上げ勢い良く押し倒した。

「…」
「っ!」
「お前を抱いていいのは俺だけだ」
「…リヴァイ…?」
「まさか見ず知らずの男に抱かれて喘いだりしてねぇよな?」

目は口ほどに物を言う。

「っ違う…聞「黙れ」
「んっ…!っは、ぁ…っ」
「レイ」

噛み付くように唇を貪った。

「お前が誰のものか今一度分からせてやる」

加速した欲望はどうやら止まりそうにない。

- ナノ -