壁外調査の朝。
畳んでおいた兵服に着替えハーネスを付ける。最初は付け方に苦戦したけれど今は身体が覚えていてジャケットを羽織れば着替えは終わり。最後に髪を手櫛で纏めて結んだ。

「おはよ」

呼びに来てくれた彼女にとっては初の壁外調査になるがいつもと同じ調子。一緒に部屋を出て廊下を歩いていく。周りからの躾という名の調教も難なく跳ね除け結局敬語を覚える事はなかった。レイは横を歩く彼女を見る。
ハンジと同じくらいの身長。
女性にしては高い。
短い髪に自分とは違う瞳の色。
野性的、野蛮、馬鹿力。此処に来る前に聞いていた噂だが野性的…は当て嵌まるかも。いつも付けてる青い鉱石のペンダント、と。

「弓?」

見るからに使い込まれた弓がその背中に背負われていた。

「これで巨人殺せるなんて思ってないけどね。あったらあったで落ち着くし」
「ずっと狩りしてたから?」
「そ、まぁ目くらいは潰せるでしょ」
「頼もしいね。陣形の配置は覚えてる?」
「全然」
「…」

本当にいつもと同じ調子だった。


*


壁の一歩外に出れば命の保証など誰もしてくれない。この先の廃村でリヴァイ達と合流しろとの伝達を受けレイ達は馬に乗り疾走していた。今回巨人との遭遇率が非常に高くこの地点に来るまでに数体討伐している。だがこのまま行けばもう少しで合流地点、の筈がすこぶる運が悪い。

「チッ、分隊長!後方から6m級!」
「っ目の前なのにまた…」
「後から追っかける、馬頼んだよ」
「待っ、…え?」

私がやる、あなたは補佐でいい。
あれ?いない?
伝える間もなく。
アンカーを飛ばす音が聞こえて。
ウィユが、消えた?
ブレードが肉を削ぐ音。
ハッとして首だけを後ろに振り返る。
数十秒も経ってないはずなのにもう…巨人の手足を?

「…速い…嘘でしょ…」

乗り主のいなくなった馬の手綱を握りそのまま廃村へと走る。レイが再度振り返った時そこに巨人はもういなかった。


*


「待たせてごめん」

廃村に着くとリヴァイ達は既に到着していた。レイは馬から降りて屋根へとアンカーを飛ばす。さすが彼の選抜したメンバーだ。みんな傷1つ付いてない。思ったより早かったなと言われる。

「アイツは」
「もうすぐ来ると思う」
「はぐれたのか?」
「それが…1人で巨人の討伐に行「あ、いたいた!」

ワイヤーを巻き取る音と同時にウィユが屋根に着地する。こちらも傷等は負っていなかった。結構早く来れたつもりと呑気な様子だ。しかしすぐまた一方的な一触即発を向ける同僚が。

「勝手に動き回ったらしいな」
「来るの遅れたらアンタがうるさそうだから分隊長を先に行かせたってわけ」
「そのクソ程に生意「敬語!」
「無理、ごめんねチビ」

すると彼女はおもむろに弓を構えた。
いきなりの事で頭が追い付かない。
まさかリヴァイに…向けてる?

「何…してるの…?」
「ん?弓構えてんの」
「ここまで馬鹿だったか。お前はどいてろ」
「リヴァイ待って!弓を下ろして」
「嫌だ」

初めて見る目。
狼みたいな獲物を狩る目だった。
いつもの雰囲気がまるでない。
もう手が離れる。間に合わない。

「ほら、役に立った」

直後目にも留まらぬ速さでリヴァイとレイの間を矢が通り抜けた。そして彼女も。まただ、アンカーを飛ばす音と一緒に。
また、ウィユが消えた。
追い掛けてこの場に響いた巨人の悲鳴。
2人して音が聞こえた方向に目を向けた時には既に地面に倒れていた。秒単位の世界。パチパチと蒸発していく巨人を背に何食わぬ顔で戻ってきた補佐官。

「っと、いやーいきなり出てきたからさ」

立体機動より速いと思って。
言った通り目くらいは潰せたでしょ?
どう?にっこりとレイに笑いかける。
あまりの速さにさすがのリヴァイも溜息を出すだけに留まる。新兵でありながらここまで動けるとは正直予想していなかった。
そろそろ移動しなければいけない。一部険悪な雰囲気のまま屋根から降り各々が馬に跨り進行を開始する。

「仮にも首席だったな」
「チビの言葉はそれ褒めてる?」
「2人共いい加減や「なるほど、そんなに殺されてぇか」
「あはは!小さくて見えないんだけど」
「削ぐ」

どうしたものか。
これだけリヴァイに物怖じせず言えるんだから珍しくもあるけど。その度私が彼女を叱らなければいけないけど。

「こういうのも悪くは…ないかな」

終わらないやり取りが続く中でレイは小さく笑っていた。

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