朝の陽が差し込む。
惰眠を貪る体質ではないから寝覚めは良い方だった。上半身だけを起こし軽く伸びをする。すぐ横にレイが寝ていたが彼女は目を開けていた。そっと髪を撫でる。

「おはよう」

2度の瞬き。
そして上半身を同じように起こすと首に腕を回されキスをされた。互いに何も着ていない状態。夜通し交わった昨夜の余韻が身体をゆらゆらと巡る。ふんわりとした唇が開くだけでも魅力的だった。舌と舌を絡ませながら背中に手を回しゆっくりと横たわらせる。

「っ…はぁ…」
「身体は?」
「大丈夫」
「まだ寝てていい」
「エル」

もう一度キス。
時間的に抱けないのが少し名残惜しくもあるが。ベッドから降りる際に翳る瞳に最後口付けた。何もかもが響く事の無い人形の身体。

「寝てていいが…何か着てからの方がいいな」

新兵や部下にとって今の姿は刺激が強過ぎる。それに女性兵士はただでさえ少ないから急に目覚めて何をされるか分かったものではない。全て曝け出されたレイを見るのは俺達だけでいい。机に置かれた兵服に腕を通していくが気配が途切れた気がしたので振り返る。

「…レイ?」

彼女はその短い間に寝息を立てていた。
ペンダントの鉱石が朝陽に当たってキラリと光る。幸運、平和、無事。その意味が今どうやって作用しているのか欠片も分からない。ただレイは今生きている。それだけが今存在している事実。笑顔が見たいだなんて我侭過ぎる願いだった。

「おやすみ」


*


「失礼…します!」

ドアを開けた時。
古城で感じた時と同じ。
いるのにいない。でも兵士長は椅子に座って手元の書類に視線を落としていた。静かにドアを閉めて机へと歩を進める。

「…リヴァイ兵長…から、です」

ジャケットは椅子の背に掛けシャツのまま。脱ぐ事なんて誰にだってあるのに一瞬クラリとした。

「ありがとう」

背徳感。甘い包まれる感覚に陥るような不思議な香り。彼女から目が離せない。首元が開いた中から素肌が見える。白くて柔らかそうで。もし触れたとしたら、どんな。
だから目が合った時やっと我に返った。
それ程までに見つめていたのだ。

「っ!?す、すみません!」
「巨人になれるの?」
「…え?」

ふいに投げ掛けられた言葉。審議会の場にもいて内容は聞いていたから本当なんだろうけど。兵士長の瞳は俺を真っ直ぐに見ていた。艶やかさの中にも気だるさを帯びた瞳。

「は…はい」
「…」
「…レイ兵士長…あなたは、」

お前に話せるのはここまでだ。
今後何かを知ろうとしたりレイにあれこれ言ったりするな。いいか?これはお願いじゃねぇ命令だ。

「っ…何でもありません」

言ってはいけない。
知ろうとしてはいけない。
リヴァイ兵長に命令されたから絶対に犯してはならない。なのにどうして兵士長の事がこんなに気になる?まだ知ってからほんの少しの時間しか経っていないのに。

「では…戻ります」
「よろしく伝えておいて」
「…分かりました」

一礼してから部屋を出て来た道を戻る。
僅かに紅潮した頬を誰にも知られないように両手でパシッ!と叩いて何度か深呼吸。思ったよりも強く叩いてしまって痛い。いや、今は痛いくらいがちょうどいい。そうじゃないとレイ兵士長の事ばかり考えてしまう俺がいた。


*


「…ん…」
「起きたか、もう夜だぞ」
「ミケ…?リヴァイも…」

ベッドで寝た記憶が無いレイはベッドの上で目を覚ます。そんな格好でうたた寝してたら危ないだろうとミケ。気付けばジャケットを着せられていた。でも中途半端な睡眠だったからか未だに眠気が手招きをしている。目を閉じたらそのまま寝てしまいそうだった。

「…明日は…壁外調査」
「おい、エレンに何か言われたか?」
「何も」

でも何か言いたそうにはしてた。
それを聞いてリヴァイは大きな舌打ちをする。きっかけが何であれ、いずれレイの元に辿り着くとは思っていた。だから牽制のつもりで話したが逆効果だったかもしれない。正直こんなに早いとは予想外だったが。

「クレマンスの話をしたのか?」
「名前だけな。お前を知りたがってる」
「私を?」
「釘は刺しといた」

だが自分をコントロールするのが下手な分いつ暴走して何をし出かすか分からない。

「気を付けとけよ」

兵士としての巨人化云々も含めてだがそれよりも、今までがエレンによって全て崩れ落ちそうな気がした。アイツがそんな事する必要は無い。レイを守るのは俺達だけでいいのだから。

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