「今日も洗濯日和」

ほら、太陽があるよ。
小さい指が高らかな空を指差す。
自然に囲まれた小さな家。
気持ち良く晴れる晴天の下で洗濯物を干していく。手伝ってくれてるのは5歳になるミカサとエレン。とある事情で2人を引き取り3人で暮らしていた。血は繋がってない。
だから似ていないのに、何処か似てるのはそれだけ彼等が何にも切れない強い絆で結ばれているからだろう。

「終わったー!」
「2人共ありがとう、用意して行こっか」
「うん」

今から行くのは此処から近い距離にある小高い丘。そこには石碑がありレイは毎日訪れている。道中はミカサと手を繋いで。エレンは少し前を歩いたり走ったり、たまに転んだり。緩やかな坂道を登りながら穏やかに流れていくこの時間が幸せだと思っていた。

「お昼は何がいい?」
「おむらいす」
「じゃあ材料買って帰ろうね」
「レイ。このお花…英雄さんたちよろこんでくれる?」
「もちろん」

目的の場所はもう目の前。
すると先に行っていたエレンがこちらへ戻ってきた。どうしたのと聞けば石碑の方を指差している。

「今日誰かいるー」
「来るのはわたしたちだけじゃないでしょ?」
「そうなんだけど、知らない人?みたいな感じしたから」
「知らない人?」

とにかく行ってみよう。
確かに見覚えのない人達、

「後世にまで私達のこと伝わってるってことだよね!?」
「英雄になってる!すげぇ!」
「うるせぇな」

え?

「…」

見覚えの、ない。違う。
うそ…だって、
そんな、会えるわけが。
一歩一歩ゆっくりと彼等に近付く。

「ハンジさん!他の方も来ましたからいい加減退いてください!」
「やーだ!まだ見る!」
「すまないな。少し待っててくれ」
「…ミ、ケ…?」
「…何故知ってる」
「どうしたの?どこか痛い?」
「びょーいん行くか!?」

突然止めどなく溢れ出る涙を見て驚いたのか、ミカサもエレンも心配そうにレイを見上げてきた。大丈夫だよ、何とか声にならない声を返す。リヴァイ、ハンジ、ナナバ、モブリットでしょ?呼ばれたものの、みんな自分の名前をどうして知ってるのか不思議そうに彼女を見ていた。
何故?知ってるに決まってる。

「っわたしだよ…?レイ…っ」

その時、みんなの私を見る目が何百年前のあの時と同じになった。ハンジとナナバに抱き着かれてみんな驚いて。泣いた。だって涙が止まらないんだもの。

「レイ!?レイ!うっそマジで!?あんなちっちゃかったのに!」
「どうしようこっちまで泣けてきた…っ!」
「ケーキ…っ食べに行くって約束…」
「うん、うん!!行こう!」

モブリットは変わらず接してくれた。
少し涙ぐんでたけど。
「子供だったレイがこんなになったのか」
「っ相変わらず…苦労してそう…」
「全然!全くないよね!?」
「アンタが答えないでください!」

「ついこの前まで生意気なガキかと思ってたら俺よりでかくなりやがってクソ野郎」
「敬語…っ出来るようになったんです…」
「ほう?…マシな頭になったな」
そう言って頭をわしゃわしゃされた。

ミケはミカサを抱っこしてエレンを肩車。
「何故かしろと頼まれた」
「うぉー高い!」
「だっこなのにたかい」
「2人共…っ」
「軽いから構わない。いつ結婚したんだ?」

結婚はしていないこと、事情があって彼等を引き取ったことを説明する。会えたことが余りにも嬉し過ぎたんだろう。むしろ冷静に話をしている自分がいた。
でもね?やっぱり会いたいの。

「みんなレイのともだち?」
「うん!ずーっと昔から知ってるんだよ」
「へー!」


「レイ」


その声に世界が止まった。
草木も花も、人も空も。
全てが一瞬で止まった。
声のした方へゆっくり振り返るとすぐ様地面を蹴り走り出していた。
その人は両手を伸ばして勢い良く抱き着いた私をしっかりと抱き留める。
優しくてあたたかい。
1番大好きな人が目の前に。

「エルヴィン…っ!!」

泣きじゃくる私に構わず抱き締めて優しく頭を撫でてくれた。もう泣くのは我慢しなくていい。たくさん泣きなさい。別れたあの日、泣かずに笑ってくれたねと言ってくれた。

「わたし…こんなに、大きく…なったの…っ」
「うん。マントも引き摺らないだろうな」
「文字も…書けるし…ったくさん…読めるようになって…っ」
「ちゃんと聞いてるよ、大丈夫」
「っわたしは…わたしは…っ!」
「レイ、頑張ったね」

すると藍色と白の細いリボンを手渡してきた。私があの日あげた物。

これが守ってくれる。
死なないんだよ。
かならず帰ってこれるんだよ。
だから安心だね。

「やっと約束を守れた、ただいま」
「…っおかえり…!」
「…そうか…こんなに、」

その存在を強く抱き締める。どれほど寂しい思いをさせたか。どれほど苦しい思いをさせたか。どれだけ長い時間を独りぼっちにさせたか。謝っても謝りきれない。こんなに成長した姿に喜びを感じながらも涙が少しこぼれた。

「本当に、今までよく頑張った」

泣きながらも笑うその顔。
太陽みたいな明るい笑顔。
どれだけ会いたかったか。

「ねぇエルヴィン」
「何だい?」
「わたしは、何色?」

あぁ会えた。
やっと会えた。
これからは、ずっと一緒。
約束しよう?

忘却の物語が、今終わった。


――――あなたは世界で一番、美しい色

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