壁外調査。
その目的は壁の外へ出て巨人の生態の調査や大部隊が移動する為の行路の整備などを行い、壁の外にいる巨人達を駆逐して人類の活動領域を拡大することである。

「兵団の主力部隊だ!」

街の大通りにはたくさんの人々が集まっていた。列を成した馬に乗っている彼等は人類の希望を託されているからだ。声援が四方八方より聞こえてくる。

「…うるせぇな」
「折角応援してくれてるのに!あーあ、みんなの羨望の眼差しも潔癖過ぎる性格を知れば幻滅するだろうねぇ」
「チッ」

調査兵団団長 エルヴィン・スミス
兵士長 リヴァイ
分隊長 ミケ・ザカリアス
分隊長 ハンジ・ゾエ

「来たぞ!」

4人の戦闘能力は壁内中に知れ渡っている。皆が話している中でふと人々の歓声がまた大きくなった。
視線が注がれる1人の女性兵士。
名前はレイ・ローゼンハイム。
新兵であるエレン達も自然と見てしまう。

「あの人が…」
「噂じゃリヴァイ兵長と同じかそれ以上の強さって言われてるよね」

しかし声も視線も、彼女には何一つ届いていなかった。ただ手綱を握り真正面を見つめている。

「開門30秒前!」

徐々に門が開いていく。
一歩外に出れば死地の世界だが歴戦の調査兵団兵士達に恐怖の色は見えない。やがて大きな鐘の音と共に門が開き切り、同じ外なのに違う空気が入ってくる。その時エレンは見た。女性兵士の首元に揺れる何かを。

「これより壁外調査を開始する、進め!!」

エルヴィンの声に馬が一斉に走り出した。
背中に自由の翼を背負って。
門を抜け廃墟となった民家を通過する。

「長距離索敵陣形展開!」

その号令に兵士達が各方面に散らばり始めた。初列四・索敵のレイが配置に馬を進めようとした際にミケと目が合う。

「気を付けろよ」

彼女が言葉を発する事はなかった。


*


「…」

しばらく馬を進めていると隣の列から上がった赤い信煙弾。レイもそれに合わせ同じ色を撃ち上げる。自分以外誰もこの場にいない。たった1人で馬を走らせる。壁の中とは違い開放感に溢れているがそれすらもレイにとっては印象に残るものではなかった。

進路の変更も無く彼の作戦通り。今の所は赤い信煙だけで順調に見える。きっと、今だけだろうけど。すると近くの索敵から黒の信煙弾が上がり遠くから1人の兵士がレイに走り寄ってきた。前方には古い民家が並び、そして複数の巨人。こちらを見ても襲って来ない。

「内容は?」
「は、はい!右翼側に奇行種出現!次列が現在戦闘中との事です!」
「そう」

レイはブレードに手を掛けた。

「このまま隣に伝達を、アレは私がやる」
「り…了解しました!」

伝達の兵士を行かせアンカーを飛ばすと狭い民家と民家の間を高速で通り抜けた。1体が気付いたようでこちらに向かって身体をくねらせながら屋根を叩き潰し、煉瓦と木片が飛び散っていくのを後ろ目で確認する。奇行種の背後に極僅かな時間で移動したレイは直接項にアンカーを突き刺した。ワイヤーが巻き取られ一気に距離が縮まっていく。ブレードが項の肉を削ぐ感覚を捉えれば奇行種は顔面から地面へと倒れた。チラと見ただけで屋根に着地する。

が、背後が突如奇行種の大きな影に覆われる。ブレードを振り払いゆっくりと振り返るもそこにレイの姿はもうなかった。


*


馬は再び大地を駆ける。何事もなかったかのように傷一つ付いていない身体と兵服。首元に揺れる錆び付いたペンダント。壁内を出た頃よりも陽は傾いており遠くから滲んでくる夕陽が頬を照らす。奇行種のせいで多少遅れを取ったが問題ないだろう。

「誰も守れなかったくせに」

風に消える声で呟き空を見上げる。
その顔はまるで人間に似せて精巧に作られた人形の様だった。

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