閉鎖的な世界。
それが壁内を歩いてみて思ったこと。
この世界の人類にとって巨人という存在がどれ程の脅威なのかを改めて知った。久遠にも同じ様な脅威はあれど、全ての妖怪に当て嵌るわけじゃない。それでも人々は恐怖の中にいながらも笑って暮らしている。

「安寧が訪れる事を願いますが…まずはエルヴィンさん達の無事を祈りましょう」

朝早く調査兵団の主力は壁外調査へ。
戦闘能力はあっても兵士ではないレイ達は部屋にいた。壁内は既に歩いたし勝手に壁外へ行くわけにもいかない。ヒトガタのリヴァイはベッドの布団の上でのんびりとしている。相変わらず油揚げが食べれない事に些か不満そうではあるが。

「しかし俺達は戻れんのか?」
「屏風を見つけたのが始まりでしたよね」

真っ白で大きな屏風を。
誰が置いたのか、それよりみんなが待ってるからと戻ろうとした時にはあの巨大樹の森にいたのだ。誰かに術を掛けられた記憶もないので原因がまるで分からない。レイは兵服から扇子を1柄取り出した。ずっと大切にしているものだ。だが先に口を開いたのはリヴァイだった。

「懐かしい」
「それは初耳です」
「お前の祖母も同じの持ってた」
「知ってるの?」

ローゼンハイムといえば久遠でも指折りの陰陽師の一族。人間だけでなく妖怪の間でもその名は知れ渡っている。何百年生きてきた俺にとっては最早因縁の相手に近かった。ゴロゴロと布団の上を転がる。

「特にアイツは目の敵にしてきて会う度会う度『跡形も無く消してやる』って意気込んでたぞ」
「ふふっ」
「少しちょっかい出しただけで九字が飛んできたから退屈はしなかった」

若い時の祖母はどんな感じだった?と聞かれたので思い出してみた。陰陽師のくせしてお転婆で負けん気が強い。もちろん関係を持つ事はなかったがいい女だったとは思う。寝転んだ身体を起こすとレイを後ろから抱き締めた。滑らかな首筋。触れるだけで煩悩が疼く。時間が許す限り抱いていたいという欲求が止まらない。

「ん…っ」
「断然お前の方がいい女だな」
「失礼しま、あっ…!」
「…テメェ…!!!邪魔してん「…エレン?エレンなの?」

ノックと同じタイミングで部屋に入った事をエレンはひどく後悔、恐怖していた。リヴァイはというと気が削がれた為に物凄い殺気を纏った目で空気を全く読まず現れた少年を睨んでいる。明るい声を上げたのはレイだけだった。興味津々といった様子で彼に近付く。

「!あ、ごめんなさい…、久遠にも瓜二つのエレンがいるからつい」
「俺が…ですか?」
「といっても向こうの彼はまだ10にもなってない小さな子供なんだけれど」
「蹴鞠ばっかしてるクソガキだろ」

その彼が大きくなるとこんな風になるんだね。私よりも背が高くなってる。レイは優しい眼差しでエレンを見つめていた。そう言われてむずがゆいような、それでいて恥ずかしくなったのは気のせいではなかった。

「で?碌でもねぇ用件だったらぶっ殺す」
「え!?」
「リヴァイ」
「俺は悪くねぇ」
「あ、あの食事を、どうされるかなと思って…持ってきましょうか?」

調査兵団には大きな食堂があるもののレイ達はいつも部屋で取っていた。理由は人混みが嫌いというこの式神の我侭である。だから今回も部屋で取りますと言いかけた時だった。何かに気付いたリヴァイがベッドから立ち上がりおもむろに窓を開ける。

「…外が騒がしくねぇか?」
「エレン!!」

今度は血相変えたアルミンが部屋に。彼まで瓜二つ…なんて思ってる余裕はなさそうだ。どう考えても良くない知らせだろう。

「門が…門が破壊されて巨人が侵攻してきてる…!」
「っ嘘だろ…!?」
「主力部隊に伝達が向かったけど…それまでどうにか持ち堪えなきゃ…!」
「どうやら緊急事態なのは把握した。おいガキ、その巨人は何したら死ぬ」
「う、項を…深く削ぐと…」
「そうか。もういいさっさと行け」

それだけを聞くとあなた達は避難しなければと言う2人に対し、あらぬ言葉をつらつら述べて部屋から強引に追い出した。状況はサッパリだが自分達にも出来る事はきっとあるはず。

「…もっと言い方があったでしょう?」
「さぁ?」
「行けますか?」
「問題ない」
「エルヴィンさん達に怒られるかな」
「アイツ等の都合なんざ知ったこっちゃねぇよ」

アイツ等に恩でも売っとくいい機会だ。
それに、

「100年に1度くらいは妖怪でも人助けしたくなる時があるんでな」

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