俺は九尾の狐。
久遠の移ろいを何百年も見てきた。
感情は持っていなかった。
持っていたのは本能。
思うがままに人間を困らせ人間を殺すというだけの。何人この手に掛けたかいちいち数えちゃいない。強さを持て余した俺はひたすらに退屈しない何かを探し求めていた。
そんな時だった。
レイを見つけたのは。

「ったく…暇潰しにもならねぇ、?」

殺した獲物をそのままに暗い森の中を歩いていた俺は立ち止まった。人間の気配を感じたので面白半分で妖気を消しその方へと向かう。何かが気に喰わなければ殺してしまえばいい、それくらいに思っていたから。子狐程の大きさになり木の枝に軽々と登る。気配の主はすぐ近くにいた。

「多く浴びすぎたかな…」

人間の目の前には身体を切り刻まれた蟒蛇が血を吹き出して横たわっている。人を無慈悲に喰い散らかす大蛇。アレをたった1人で…久しぶりの手練か。これなら殺すにしても多少は楽しめるかもしれない。だがそいつが振り返ったせいで動く事が出来なかった。

「…」

見つかったという意味で動けなかったわけじゃない。正確には俺がそいつに見蕩れたからだ。
返り血を浴びた身体が、透き通った肌が、凛とした顔付きが、全てが美しかった。
その時本能が動く。
俺のものにしたいと。

「レイ、怪我は?」
「大丈夫。中務省に戻りましょう」
「そしたら清めて…ん?何かいた?」
「いいえ、何も」

へぇ…彼奴の名前はレイ。
退屈が終わった瞬間だった。


*


「こんばんは」

あの日から俺は夜になるとヒトガタに化けてレイの屋敷を訪ねた。寝殿造りは開放的な為に簡単に出入りが出来る。妖気を完全に消しているので怪しまれる所か客人だと思われていた。決まって琴を弾くレイの姿を見るのが好きだった。寝殿から外へ伸びるゆるやかな階段に座り音色を聞く。
生暖かな風と夜桜に月明かり、それらがゆるりと混ざり合って心地良い。
しばらくすると演奏が終わる。

「相変わらず上手いな」
「ありがとうございます。お茶を点てましょうか?」
「あぁ」

合った目が離れた一瞬の隙を見計らい音も無くレイを押し倒した。着物の隙間から夜風が入り込んでくる。主導権はこちら、如何ようにも出来る。もう妖気を隠す必要も無い。

「…そう…だったの、」
「ほう?喋る余裕があるのか」
「っ!」

トクンと鼓動が走る首筋に噛み付く。痛がる顔、味わった事の無い味がした。無理矢理に開いた着物から現れる素肌。一切の穢れがない白、掌で胸を揉めば柔らかな弾力。次は胸の下辺りに歯を立てると僅かに歯形から滲んでくる真紅の血。それを舐め取った。

「んっ…!」
「いい味してんな」
「…っ…は…」
「悪くねぇ顔だ」
「あ、ぁっ…」

下から上に舌を這わしていき乳首に当たると迷わず口に含んだ。レイの身体が反応を返してくる。小さな快感に羞恥で頬がほんのりと染まる。それが面白くてゆるりと責め立てていく。が、俺が本当に見たいのはレイが快楽に堕とされ泣き叫ぶ姿だった。従順に喘ぐ姿じゃない。

「んぁ…ぁ、」
「…さて、一番の楽しみは」
「はぁ…っん…だめ…っ」
「そう言われると余計したくなるのは妖怪も一緒だ、残念だったな」
「あっ!ゃ…っ!」

空を切る手が時折俺の身体に触れる。
濡れていようがいなかろうが関係ない。
秘部の割れ目に人差し指を挿れ込む。
中は極端に狭い、まるで何にも犯された事が無いような。

「お前…処女か」

怯えた様にこちらを見つめるレイ。
涙が溜まり瞳が反射している。
ゾクリと本能が沸き立った。
純白を穢すという至高の行為。
取り出した肉棒はすっかり熱を帯びている。
わざと擦り付けると腰が浮いた。

「この先何するかくらい分かるだろ?」
「っ…や、めて…!」

出口のない快楽の蟻地獄に堕ちればいい。
細い素足を一舐めしてから秘部に突き刺した。きつく締まっていくのをこじ開ける様に秘部の中へ無遠慮に押し込んでいく。

「いやぁ…っ!はっ、ぁ…あぁ…っ!」
「っそうだその顔…もっと啼け」

初めての耐え難い痛みに身体は震え、透明な涙が何度も白い頬を伝って消えていく。それだけでも楽しいが全然足りねぇ。嫌がる反面、秘部は着実に俺のを飲み込んでいった。

「っん、ぁ…!やぁ…っい…た…っ!」
「言葉と身体がまるで逆の反応してんぞ…っ全部飲み込みやがって」
「あっ、ん…!はぁ…んぁっ!」

軽く律動するだけでも喘ぎが漏れる。
今俺はレイを穢している。
たまらなかった。

「妖怪に犯されてる気分はどうだ?」
「ぁ、あっ…も、やめて…!」
「嫌なら抵抗してみろ、っ!」
「あぁ…っ!はぁ…は…何、これ…っ」

一際大きい快楽が押し寄せ達したみたいだ。
中の締め付けが増した。

「っテメェ…処女だってのにおねだりの仕方は知ってんのか」
「あっ!だめ…っぁ、んっ!」
「だからだめじゃねぇだろ、手で顔隠しても分かんだよ…」

手加減も何もしてやらねぇ。
泣き叫ぶ喘ぎを聞きながら腰を打ち付ける。前のめりになり顔を隠す両腕はそのままにレイの中へ肉棒を更に突き刺した。律動に合わせて細く白い身体が波打つ様に揺れる。
それなのに、最高に楽しいと思える筈が何処か苛立っている俺がいた。

「おい…」
「ぁ、んっ…あぁ…!」
「…俺は人間じゃねぇんだぞ…」
「そこ…当て、ったら…ゃ…ま、た…っ!」
「っ…術でも何でも使って抵抗しろ…」

こんなんじゃない。求めていたのは抗う身体を犯し尽くすこと、これは違う。
(これじゃまるで)

「抵抗しろって言ってんだろ…!」
「ぃ…あぁっ!」
「っは…!」

最後の一締めに限界を超え中に精を放った。脈打つそれは秘部全体へと広がっていく。やんわりとした温かさ。そして駆け巡る快感。引き抜いてから手をどかすとレイと目が合う。美しい顔だった。

「っはぁ…チッ…何考えてやがる…」
「…あなたは、っどうして…?」
「お前に惚れた、それだけだ」

ふと温もりを感じる。
俺の身体に回された細い両腕。

「…あ?」
「妖怪だってことは…何となく、分かっていました」
「ならどうして」
「私も…あなたのことが、」

毎晩来てくれたあなたは私が弾く琴を聞いてお茶を飲んで、そして他愛もない話をしてくれた。それがいつの間にか楽しみになっていて、段々と好意に変わっていった。

「…好きだったから」

ぎゅっと抱き締められる。

「…」

初めて生まれた感情はこんなにも美しい。
ただただ愛しい。
離れたくないと、守りたいと思った。
唇にそっと自分の唇を重ねる。

「レイ」
「ん…」
「名を呼べ。お前の式神になってやる」
「…でも、」
「だから側にいさせろ」

月明かりに舞う夜桜がはらりと寝殿に入ってくる真夜中。俺とレイはこうして出会った。

「リヴァイ」

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