「エルヴィン・スミスだ」
「改めてレイ・ローゼンハイムです。早速で恐縮ですが…こちらの世界のことを教えて頂けますか?」
「この国家には憲兵団、駐屯兵団、調査兵団3つの大きな組織があってね。我々は調査兵団に属している」
「「ちょうさへいだん?」」

壁の中で暮らす人類国家において唯一、壁外に遠征する兵団だ。人類領域外の調査を主な任務とし、巨人の捕獲および生態調査も担当していて私は団長を務めている。
駐屯兵団は壁の守備と強化、および壁内地域の防衛を担う兵団。そして憲兵団は城壁内での警察業務と王の近衛兵を担う兵団だ。

「唯一?外に人間はいねぇのか?」
「人類がいるのはウォール・ローゼとウォール・シーナの壁内だけだ」
「その巨人については?」
「ほぼ解明されてない。前にウォール・マリアがあったが侵攻されてね」
「つまりアレか、お前らは巨人から外の世界を取り戻そうとしてると?」
「そういう事になる」

狭い世界。
壁にはそういう意味があったのか。
彼等は人類の未来を背負っているようなもの。しかし巨人を相手にしているだなんて。久遠にも大きな妖怪はいるけれど。

「それにしても」

着物を着たヒトガタのリヴァイは初めてのソファにふんぞり返って座っていた。

「握り拳を心臓に当てるなんざ随分と珍妙な挨拶するんだな」
「兵士の敬礼だよ。しかし本当にリヴァイそっくりだ」

あまり動じていない姿に少し驚いた。

「でもエルヴィ「見つけたー!!!!あ!私は調査兵団分隊長のハンジ・ゾエ!よろしくね!」
「は、はい…レイ・ローゼンハイムです。よろしくお願いします」
「うるせぇ何なんだコイツ」

急に現れ笑顔で無理矢理に握手をするハンジ。久遠のハンジと瓜二つでどこか懐かしくなる。妖怪が大好きな彼女。聞けば彼女も巨人が大好きなんだそうで、目がキラキラしている所もやっぱり同じだった。

「ねぇねぇ!レイ達の世界のこと、教えてくれない?久遠の都って!?」
「…急に人が増えてすまない」
「いいえ、お気になさらず。久遠の都は人間と妖怪が共存し対立する世界です」

共存なのに対立?
えぇ、簡単に言えば悪い妖怪と良い妖怪がいるということ。その悪い妖怪を呪術、呪文、呪符等を用いて討伐するのが陰陽師の役目になります。
じゅじゅつ?それ総統が言ってた変わったこと?久遠じゃ普通の事だ。

「って、どうしてそんな服着てんの?兵服は?」
「あ?」
「ふふっ」

思わずレイは吹き出す。
そちらのリヴァイさんではなく審議所にいた黒狐ですよ、と言えば大袈裟な程に驚いていた。人が動物に?さすがのエルヴィンも物珍しそうな視線だ。

「彼は妖怪なんです」
「ようかい?」

伝承等で伝えられてきた動物や植物ではない不可思議な存在の事です。私たちの世界では呪術と同じく存在している事自体が普通の事で、こうして人に変化できるものも多くいます。

「そっかー…私達のそっくりさんが向こうにいるなんて不思議だなぁ」
「此処に来る道中『へいちょう』だなんて言われたがどういう意味だ」
「兵士長って意味。こっちの彼は人類最強の兵士なんだよね」
「最強?あのガキが?」

到底見えねぇ。
レイも1つ気になっていたことが。

「巨人を討伐する際に使っていた道具は?空中を飛んだりしていましたが…」
「立体機動装置だよ」
「「りったいきどうそうち?」」

それから事細かに説明を受けた。
漠然と理解したが、たったこれだけの時間であらゆる物事を知った。それなりの時間が経っていたようでこの場は解散することに。

「エルヴィンさん」
「?」
「お世話になる上で何かお手伝い出来る事があれば仰ってくださいね」
「ありがとう」
「いや待て、最後にお前らに聞きたい事がある。重要な案件だ」


*


「拗ねないでください」

さっきからずっとこう。
部屋に戻りベッドの真ん中、リヴァイは小さな黒狐の姿でうつ伏せに寝転がっていた。完全に脱力している。つついてみる、反応なし。話し掛けても反応なし。余程衝撃を受けたみたいだ。

「存在すら知らねぇとは…人生幾らか損してるぞ…」
「こればかりは仕方ありません」
「…油揚げ…」

レイはリヴァイを抱き上げ自分の膝に乗せる。こんなにしょぼくれた彼は初めて見たかもしれない。いつもの様に優しく身体を撫でる、と思ったら瞬きの間にヒトガタになっていた。今の状態は所謂膝枕。こうなった彼は好きにさせるしかない。トン、と一定のリズムで叩く。

「寝てもいいですよ」
「不貞寝する」
「帰ったら油揚げ食べようね」

明日は兵団の外を歩いてみましょう。
目から得る情報も必要ですし。

「レイ」
「っ…」

撫でていた手を取られると鈍い痛みが伝わってきた。止んだと思いきやまた伝ってくる痛み。強かったり弱かったり。

「噛み跡付いちゃいます」
「付けてるんだ」
「どう、っして?」

どうやら不貞寝の予定は消えたみたいだ。
九尾の狐の口元が悪戯に笑った。

「楽しいから」

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