「奇行種だ!!」

巨大樹の森。
後ろからはけたたましい足音を鳴らし巨人が追い掛けてくる。追い付かれるか付かれないかのほんの僅かな差の中で、調査兵団でも精鋭揃いのリヴァイ班は新兵のエレンを伴い馬を走らせていた。

「速い…!立体機動に移りましょう!兵長!」
「森を出たら討伐する、それまで逃げ切れ!」

背後からの増援も玩具程度にしか感じられないのか容易く捻り潰し地面に叩き付けていく。やがて低姿勢になると勢い良く踏み出し速度を上げた。確実に詰まっていく距離、今の状態では立体機動に移る余裕もない。

「目標加速!」
「ダメだ追い付かれる!」

「陰陽道 火の式・覇焼」

突如何処からともなく飛んできた幾つもの大きな火の玉が奇行種を容赦なく襲った。その甲斐あってか彼等との距離が開いていくが、走りながら辺りを見回していたエレンの視線が一点で止まった。何かが俺達と同じ様に疾走している。黒い何かが。そして誰かがそれに乗っている。

「も、燃えた…!?」
「話してる場合じゃないでしょ!とにかく森を抜けなきゃ!」

(あ、あれは…?)

「エレン!?おい聞いてんのかよ!」
「オ、オルオさん!向こうに、」
「こんな状況で人間が見つかるとはな」
「!喋っ…た…!?」

黒い何かはいつの間にか班の前を走っていた。驚く班員達。リヴァイは後ろから再び追い掛けてくる巨人に気を配りながらもブレードに手を掛けた。それに気付いたのか見知らぬ和装の女は手で制する。森の出口はすぐそこだ。

「あなた達に敵意は…え?リヴァイ?」
「レイ、話すだけ無駄だ。まずはあのデケェ妖怪から始末するぞ」
「そうだね、ごめんなさい」
「森を抜けます!」

一気に視界が開けるとレイは両手で引を結び始めた。

「封の式・攻襲絶封」

最後の印を結び終えると奇行種の手や足、顔、身体全体に梵字が浮かび上がる。身動きを封じられ動く事は愚か声すら出せない様子だった。

「!?き、奇行種が…動かない…」
「1人でやりやがった…」
「…どうなってやがる」
「良かった。皆さんお怪我は無さそう…って、」

しかしそれで安心、ではない。
全く知らない人間が想像の範疇を超えることを目の前でしたのだから。当然レイ達に懐疑の視線が突き刺さる。
よく見れば馬に乗った彼等と同じ姿をした人がこの開けた場所に多数集まっていた。それにしても洋装な格好をしている。
先程の奇行種は討伐され跡形も無く蒸発していった。両手に持っていた物で切っていたみたいだが、あれはどうなっているんだろう。それに空中を高速で飛んでいる様にも見えた。

「それ所じゃないみたい」
「これは一体どういう事だ。…大きな動物だな」

誰かの声に周りが一斉に握り拳を心臓辺りに持っていった。特殊な挨拶をするものだ。だがこちらに歩いてきたのはよく知る人物で。

「…エルヴィン?」
「私の名前を知っているのか?」

そう、彼だけじゃない。
エレンも、リヴァイも。みんな服装が違うだけであとは全部同じだった。ますます何が何だか分からないが、久遠の都に存在する彼等では無さそうだ。その証拠に懐疑の視線が更に強まった気がしたから。

「驚かせてしまい申し訳ありません。こちらの世界にあなたと瓜二つな方がいるので」
「こちらの世界?」
「エルヴィン、コイツ等は拘束して審議会にかけるべきだ」

何もかもが怪し過ぎる。
それに得体のしれないモン使った以上野放しにするわけにもいかねぇだろ。
その言葉にリヴァイが黒い妖気を纏わり始める。どうやらお前らの命を助けてやったのに礼の一つもないとは何ぞや、らしい。

「クソガキ、礼儀ってモン教えてやろうか?」
「いいのリヴァイ。怒らないで」

動物が喋った!?
リヴァイ?兵長と同じ名前だぞ…?
当然周りはざわつく。
レイが優しく撫でていると幾分落ち着いたのか尻尾をフヨフヨと動かし始めた。

「その審議会を行う場所へ連れていってください」

ここでやらかすのは得策ではない。
なら郷に入っては郷に従えだ。
しっかり話をすれば伝わるはず。

「…分かった、では行こう。撤退しろ」
「おい、審議だ何だ好きにすりゃいいが俺の主に傷1つ付けてみろ。テメェの命だけじゃ済まさねぇからな」
「心配ありがとう」
「チッ、油揚げが食いてぇ」


*


「丸1日経ったけど誰もレイとリヴァイ見てないって」
「だが久遠から出てるとも思えない」
「なら妖怪?それとも空間転移やられたとか?そんなヘマするかなぁ」
「何処にいようと無事ならいいんだが…」
「…あれ?」
「どうした?」

ハンジは1つの部屋の前で止まる。

「この部屋何も無いんだっけ?」
「あぁ」
「本当に何も無かったっけ?」
「無かった」
「ふーん。もー!レイ達どこ行ったんだよー!」

- ナノ -