「よし、今から乱取りを行う。基本を大切にしながらも積極的にいけ」
『押忍!!』
「では組稽古に移る。互いに力を抜いて1つ1つの気を意識しろ、いいな?」
『はい!!』

「おーみんなやってるやってる」

ハンジはテキパキと道着を身に付けていく。その向かいには既に準備を終えたエルヴィンが竹刀片手に立っていた。

「この前まで道場の隅っこで遊んでたと思ったら師範だもん」

私もどーりで歳取るわけだ!
まるで説得力がない言葉だった。
最後に面の位置を直しながら立ち位置に立つ。その空気はどこかひんやりとしていた。

「お手合わせ願う、父さんにはまだまだ現役でいてもらいたいからね」
「可愛い我が子の頼みならまだまだクソジジイでいてあげようじゃないか」


*


「ヒャッホーイ!!来ちゃった学校!青春!やべぇ懐かしい!」

ローゼンハイム家男4人衆は朝稽古を終えてレイとミカサが通う学校の文化祭に来ていた。何故かエルヴィンだけ着替えても道着なことには誰も触れていない。小中高一貫なだけあって入口から様々な出店で賑わっている。とりわけはしゃいでいるのはハンジお爺ちゃん。

「うるせぇぞクソジジイ」
「うるさくもなるよ!あー…ママと昔こっそり学校抜け出してデートしたなぁ…」
「それで2人の店は?」

ミケの広げたパンフレットを4人で覗き込む。

「レイは3─Fだから…たこ焼き。ミカサは5年2組でお化け屋敷だな」
「あ、今いるの初等科『キャー!!』
『ちょ、何、怖ッ!』
『やだもう出たいぎゃあああ!!』

適当に歩いていたら例のお化け屋敷はすぐ近くにあったみたいで。真っ黒な装飾が見え、盛大な悲鳴が聞こえてくる。すると入口の椅子に座っている少女がこちらに気付き頭を下げた。孫の親友だ。

「同じ道場に通ってる子だよ」
「はじめまして!サシャ・ブラウスです!」
「よろしくサシャ、エルヴィン・ローゼンハイムだ。ミカサといつも仲良くしてくれてありがとう」
「わぁ…!握手してください!」

どうやらローゼンハイムの面々は彼女の中でヒーロー化しているらしく1人ずつサシャと握手することになった。未来ある子供に憧れと言われて悪い気はしない。

「お化け屋敷入りますか?」
「じゃあ4人で!」
「わかりました!それではいってらっしゃい!」

垂れ下がってる黒い布を手で開き中に入る。
真っ暗でほとんど見えない。

「あんなデケェ悲鳴上げて…ガキが作ったモノに大袈裟だろ」
「意外と怖いかもよー?」
「ハハハ!楽しもうじゃないか!」
「?ミケ、引っ張んな」
「俺じゃない」
「あ?じゃあ誰が、!!?」

数分後、4人は物凄い速さで出てきた。
顔面真っ青の冷汗ダラダラで。
そして彼等は言った。生きてきた中で一番怖いお化け屋敷だったと。


*


「ひやひやする」
「何急に、ひやひや?」
「さっきので頭殺られたか」
「あ、お父さん!」

光の速さで振り返ると目に突っ込んでも痛くない愛娘のレイが文化祭Tシャツにハーフパンツ、長い髪を1つに結び、祭りのハッピを着て手を振っていた。すぐ様エルヴィンとリヴァイのカメラ連射が火を噴く。

「あぁぁああぁ可愛い!!!」
「撮らないでってば!」
「おいレイ、もう少し左向け」
「やだ。お兄ちゃんもお爺ちゃんもありがとう、これ人数分のたこ焼きだよ」
「わーい!髪結ぶとホント嫁ちゃんにそっくりだね!んー可愛い!」

彼等の横を通り過ぎる生徒や一般人は『何処にお爺ちゃんがいるのか』と。そんでもってレイを見て『なんだこの超絶美少女は』と思っていた。

「それで!?エレンとは校内デートした?」
「えへへ、うん!もうすぐ此処に来る、」
「レイ!あ!皆さんもこんにちは!」
そうかひやひやさせる正体は君だったのか
「ヒィィィ!!」

この場に来たエレンは女装していた。
クラスの出し物は喫茶店。だが服装を男女逆にしようということになったので女装、しかもメイド服を着ている。

「ほら!可愛いでしょ?」
「て、照れる…!」
「照れんじゃねぇチンカス目が腐る」
「ギャー!すみませんでも決まったことだから仕方ないだだだ!痛「エレン

鶴の一声、とはまさにこれ。
そのオーラにこの階全てが静まり返る。

「な…なな、なんでしょうか…!?」
「そんなにレイと付き合いたいか?」
「は、はい!!」
「そこまで言うなら明日家に来なさい。私を倒す事が出来たら交際を認めよう」
「え!?」「お父さん!?」
「これは果し状だ、逃げも隠れもせず待っているよ」
「は、果し状…」
「おいクソガキ」

達筆で書かれた『果し状』がエレンの手に渡った。アチャーと額に手を当てる彼の父親ハンジお爺ちゃん。ミケは盛大な溜息をついている。私、ママとこんな風に育てた覚え全くないのになぁ。

「親父は強ぇぞ」


*


その頃。

「ミカサ!お客さんすごい怖がってました!さすがです!」
「よかった」
「あとで一緒に校内回りましょうね!」
「うん、たこ焼き食べよう」

何も知らないローゼンハイム家の末っ子は親友と共に文化祭を楽しんでいた。

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