調査兵団に一人の女性が訪ねてきた。
新兵である俺はこの人が誰なのか全く知らない。なので少しこの場で待ってもらうように告げ、リヴァイ兵長にどうするべきかを聞きに行ったら『部屋に通せ』だそうだ。見ず知らずの人を良いのか?しかし兵長命令には逆らえないので待たせてしまった謝罪を含め来客用の部屋へ案内。
ずっと立ってもらうのは失礼なのでどうぞ、ソファに座るよう勧めれば、女性はありがとうと言って座った。

「えっと、団長は…もうしばらくしたら来られるかと」
「いいのよ気にしないで。私の方こそ急に此処を訪ねてごめんなさいね。…あなたが…エレン?」
「え?あ!よ、よくご存知ですね」

素直に疑問を口にすると、女性はあの人から話を聞かされたからと微笑んだ。話を聞かされる?あの人から?誰にだ?

「っえ、ええ?えーっと!」

とりあえず何か飲み物でも出さなければと慌てる俺をよそに女性は周りを見回してポツリと呟いた。

「あなたがいるってことは…」
「?」
「久しぶりだな」

突然部屋に入ってきた兵長が女性に話しかけた。と思いきやミケ分隊長まで。テンションが高ぶり過ぎてるハンジさんに至っては凄い勢いで抱き着いている。

「レイー!!来てくれたの!?すんげぇ嬉しい!元気だった!?」
「ふふっ、相変わらずのハンジ。私は元気よ。ミケも久しぶりね」
「あぁ」
「??」

なんだ?状況が分かんねぇ!
見知らぬ女性が来て、俺の名前を知っていて、兵長達の事を知っていて、兵長達も女性の事を知っていて、それに話をよく聞かされるあの人…?
整理してみるも益々こんがらがった。

その間にも4人会話は続く。
ここまで来ると関係が気になる。
だから思い切って聞いてみた。

「まだ来ないのか」
「えぇ。でも気長に待つつもり」
「へ、兵長!!」
「なんだ」
「皆さんはその、どういう…関係なのかなって」
「関係…友人みたいなものだな。レイはエルヴィンの妻だ」
「…妻…?おく、さん…なんですか?」
「実はね、挨拶が遅れてごめんなさい」
「あはは!驚いたでしょ?」

素直に頷く。
聞けば彼女も元は団長達と同期で調査兵団にいたらしいが結婚を機に退団したんだとか。
この人が…エルヴィン団長の奥さん。
その衝撃的事実には心底驚いたが…綺麗な人だとは思っていた。綺麗な人形みたいな、そんな感じだ。レイさんが手土産にと買ってきてくれた茶菓子を食べながら話に戻る4人。せっかくだからと俺もこの場にいる事を許可してもらえた。

「お前から行ってもいいんじゃないか?」
「知ってるでしょ?あの人は仕事が好きで仕方ないの。結婚する前もした後もそれだけは変わらないところね」
「なら巨人と結婚すりゃ良かったかもな」
「それはハンジだろう?」
「私かよ!あ、エルヴィン!」

振り返ると入り口に団長がいた。格好は何時もの兵服なのに奥さんがいたという事実が変に作用していて今日はアレだ、驚きの連発だ。

「そのまま来てくれても良かったんだが」
「あら?私はあなたが『すぐ』来てくれるかと思ってずっと待ってたのに」
「そ…それはすまない」
「女を待たせるとは…」
「いいのよミケ。私より自由が優先なのは昔からで今に始まった事じゃないから。お陰で1人の寂しさには慣れてるわ」
「…返す言葉が…見つからない」

そして彼女はにっこりと笑う。

「嘘よ嘘。からかっただけ。ちゃんとあなたに会いに来たの。聞けば仕事ばかりでまともに食事もしてないんですってね。だから私がいる間はしっかり食べてもらうわよ」
「適わないな、レイには」

苦笑いしながら団長が頷く。新鮮な姿。
すごく幸せ者なんだと思った。

「外でも歩こうか。後で来てくれ」

一言残し再び団長室へと戻っていった。
いやいやいやいや。
何考えてるんだアイツは。
忙しいのは分かるがそれはねぇだろ。
兵長はやれやれと首を振り彼女を見る。

「らしいといえばらしいんだろうが…」
「来たのに戻るのか」
「レイより書類を取った!」
「でも!お2人はお似合いだと思います」
「…ふふ、ありがとう。本当はね、自由に夢中だっていいのよ。なんだかんだいって優しくて。あの人私のこと大切にしてくれてるもの。真面目でどこか不器用なんだけど、とっても素敵な人」

最愛の人を思って綺麗に笑う彼女は、恋に夢見る少女のように美しかった。


あぁきっと

そんなところに惚れたのね。

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