ここに来るまで何があっただろう。
その一つ一つを思い出せないくらい多くの出来事があった。気付くとレイと出会って始まり、気付けばレイが死んで終わっていたような。瞬きをしている間に。こんな表現が一番しっくり来るかもしれない。

直属の上司が死亡したミケ班に所属していたミカサとアルミンはリヴァイ班へと移動になり、その後特に兵団内で何があったわけでもなく本当にそれだけだった。

「…汚ぇな畜生」

袖口で拭ったところで落ちやしないどす黒く染まった赤い血。これはもう着れない、いや着たくもないし見たくもない。何回目の支給になるやら。男は倒れる屍を八つ当たり気味に蹴り飛ばすと歩きながら耳元を手で抑えた。誰かと連絡を取っているらしい。

「今から戻る。俺の方は問題ない」

次第に近づいてくる不穏な影。
男は気付いていない。

「あと新しいジャケットを手配しておけ、今日中にだ。切るぞ」

そして男は暗闇に向かって引き金を引いた。
右手に一丁、左手に一丁。
二丁の銃から鈍い銃声と共に断末魔が響き渡る。
人間でありながら人間でない異形。

「隠れるなら上手くやれクソ野郎、?」

あぁ。

「…なるほどな、そんなに構って欲しいか」

その言葉に辺りが気配を纏わり始める。
すぐ様襲ってこないということは…それなりに知能があるらしい。ランクはBくらいだな。さっさと戻ってジャケット変えてぇのにとんだ迷惑ときたもんだ。
突然物陰から1体、そして2体目が飛び出してきたが男は一切怯む事なく二丁の銃を両手に構えた。

『いつかまた、向こうで』

その日が来るまで俺は戦う。
悲しむ暇などない。

「まぁ、せいぜい退屈させるなよバケモノ」


*


「此処ってさ、よく見えるよね」

人間達が。
外套を羽織り翁の面とアニメキャラの面を付けたイーター2体が寂れた建物の屋上にいた。この下にいるたくさんの人間が私に捕食される為に生きてると思うととてつもなく興奮する。

「…アニから始まって…サシャにナナバ、ミケ」
「そしてレイも」
「7人いたのに2人になっちゃった」

エルヴィンは風で少しズレた面を直す。
きっと似合うからとレイが買ってきてくれたものだった。

「あっという間」
「それでも私達がやる事に変わりはないさ。たとえ生き残った者が違ってもこうする筈だ」
「結局悲しむ暇もなく殺し合いは続くんだねぇ」
「だが最高の脳味噌を見つけたら死んでも構わないかな」
「一生来ないでしょ。さーてと!じゃあみんなの分まで元気よく狩りに行きますか!」
「あぁ、よろしく頼む」

生きる為に食べる。それの何が悪い?
そして2体は闇へと消えていった。

「さぁ人間達!退屈させないでよー?」


この世界には人間の姿でありながら人間を捕食する異形の者が存在する。
血も涙もないそれらは己の欲するがままに人肉を喰らってきた。
見えない恐怖はすぐ近くで笑っている。
今日もまた1人、
今日もまた1体が何処かで死ぬ。

 

   
   


   

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