「ァ゛、ア゛ァ…ッ!」

苦し紛れに立ち上がるも身体は壁に当たる。何かを振り払う様に手を動かしたが空を切るばかり。その間にも赤い瞳と口からからは血が溢れ、リヴァイは銃を向け構えた。

「ッはぁ…ア゛…ァ…くそが…」

よろけた反動でグラスが幾つか落ちガラスの割れる音がした。レイは苦しそうに呻きもがいていたが、しばらくして乱れた呼吸を吐きながらリヴァイに笑いかけた。

「は、ッアハ…ハ!驚いたろ?」
「レイ」
「ァ゛、ゲホッ!俺は…造られたイーターだか、ら…アァ゛…ッ、禁断症状が普通のより…なんか強いんだよね…」

話しながらレイが指差した先には小さなアルミのアタッシュケースが開かれた状態で無造作に置かれていた。銃を構えながらその場に行くと、螺旋状に青い液体が入った試験管のようなものがいくつも並べられている。

「それ、は…ァ゛…抗遺伝子剤…まぁ…ッ発作を抑える薬みたいなもの…」

注射器等はなくそのまま腕に刺せば薬が入っていくらしい。1本手に取りすぐ様レイの元に戻ると腕を掴んだ。
もう人間じゃない。
赤い瞳、赤黒い血。
そうだとしても。

「いい」

抗遺伝子剤を持つリヴァイの手をレイが掴んだ。イーターだからかこちらが何をしてもビクともしない。噎せた反動でまた口から赤黒い血が吐き出される。

「も…いい、ァ゛ア゛…ッもう…十分…」
「レイ!」
「ァ゛…殺して…いいからさ…」
「聞こえねぇ、断る」
「ッお前なら、一発だろ…ほら、早く」
「ふざけんな」

銃声が間髪入れずに鳴った。

………
……


「なに、やってんの…?」

全ての弾を空虚に撃ち尽くしたリヴァイは未だ自分の腕を掴んでいる手を外そうとしたが何ら変わらない。このままだと禁断症状が最終段階まで行って最終的にお前も俺も死ぬよとレイは笑う。

「でもそれは、ァ゛、嫌だ…から…」
「…」
「ッお前が…殺してくれたら…ゲホッ!嬉しい、かな…」
「どうして隠してた」

言える秘密でないことは分かってる。
それでも幼い時から聞いていれば、知っていればこうはならなかったかもしれないのに。レイがイーターではなく人間として生きていける方法が見つかったかもしれない。
深く息を吐くと先程より落ち着いたレイ。それでも見た目がイーターであることに変わりはないし、身体の中は着実に人間ではない遺伝子が1分1秒と侵食している。

「殺されるならお前にって思ったから、だよ」
「…」
「調査兵団に、はぁ…ッ入れば…いつか…俺のところにまで来てくれるんじゃないかと、思って…」
「そう選択したのか」
「そういう…こと」

今までしてきた選択が間違っていようがそれを反省する気はない、残りの仲間の情報をお前に教えたりもしない。違うね、本当はそんなことを言いたいんじゃない。

「リヴァイ」

目を合わせたまま左手を床に這わす。
指に触れた銃の感覚。
さっき弾き飛ばされたこの銃にはまだ弾が入っている。
レイはそれを手に取ると自分の心臓に当てた。最後に教えてあげる。
俺の弱点は額じゃなくて心臓。

「レイ、」

まだ話したかった。
生きてたかった。
お前ともっと一緒にいたかった。
ごめん。本当にごめん。
それでもお前には感謝しかない。
ずっと家族でいてくれた。
3人でまた一緒に暮らそう。
ありがとうリヴァイ。

「いつかまた、向こうで」


*


「おい…いい加減起きろ」

一際大きい銃声からどれくらいの時間が経っただろうか。真正面から浴びた返り血を拭うことなくリヴァイは壁に寄りかかり真下で眠るように息絶えたレイを見ている。身体を揺すっても頬を叩いても反応がない。無表情に声を掛け続けた。寝てるだけ。そう、寝てるだけ。

「おい」
「レイ」
「何寝てやがる」
「さっさと起きろ」
「レイ、頼むから、」

( 目 を 覚 ま し て )

「…ガキの頃言ってたな」
「何処か遠い所に探検に行こうって」
「遠い所って何処だよ」
「気付けば俺1人になっちまったぞ」

外は晴れ。

銃声が何発もした以上ここに兵士達が来るのは時間の問題。その時が来たらレイの死体は調査兵団で解剖され焼却される。処罰はないだろうが俺も取り調べを受けるだろう。
最愛の家族の隣に寝そべる。頬に触れたらさっきよりも冷たくなっている。赤黒い血が兵服に染み込んでこようが何だって良かった。
一緒に入れる最期の時間だから。

「レイ…何処に行くんだよ俺達は」

目を閉じた時、リヴァイの頬に一筋の涙が伝った。

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