【忘却の物語主人公】


「レイ、髪はどうしようか?結ぶ?」
「むすばない」
「じゃあ綺麗に梳かすからね」
「うん」

ホワイトデーはエルヴィンと一緒がいい。
それなら思い出になることしよう!
時に何て言葉を教えてるんだ、なハンジとナナバはお洒落をしたエルヴィンとレイの姿を壁内で有名な絵師に描いてもらおうと提案してくれた。絵師は快諾してくれ今日まであっという間に時間は経った。お返しにと奮発して買ってくれたワンピースを着てペトラに髪を梳かしてもらっているレイは嬉しそうに足をパタパタ動かしている。

「団長見たら喜ぶよ」
「楽しみだね」
「うん、はい出来た!」
「ありがとうペトラ」
「どういたしまして。じゃあ団長室行こっか。さっき教えたの覚えてる?」
「大丈夫」

準備を終えた2人は部屋を後にし団長室へと歩いていく。ここからだと少し時間がかかる。何せ調査兵団も広いから。となれば、道中誰かに会うのも当然なわけで。

「あ、ペトラさん。レイは…そういえば絵を描いてもらうの今日でしたよね」
「そうなの」

エレンに遭遇。
するとレイは両手でワンピースの裾をつまみ軽く持ち上げながら腰を曲げ、頭を下げた。カーテシーと呼ばれる女性が行う伝統的な挨拶だ。

「こんにちはエレン」
「お、おぉ…こんにちは!服、すげー似合ってる」
「ありがとう」
「俺にも描いてもらったの見せてな!」
「うん」

軽く会話をして別れるとまた団長室目指して歩く。しばらくして到着すると中では既に準備が終わってるみたい。だってハンジの声がすごく聞こえる。コンコン、ノック2回すれば入ってきての声。ドアノブを捻って中に入るとエルヴィンもハンジもナナバも、ミケもリヴァイもいた。

「お待たせしました!失礼します」
「はいよー!って、レイ可愛い!!」
「確かに似合ってるな」
「着せてみるもんだ」
「素直に可愛いって言いなよ〜」
「出来る?」
「うん、できる」

繋いでいた手を離すとみんなにカーテシーをしたレイ。

「みなさんこんにちは」
「わぁ…!お姫様みたいだね、こんにちは!」
「ペトラに教えてもらったの」
「よく出来たね、完璧!」
「レイ」
「似合ってる?」
「あぁ、とても似合ってるよ」
「よかった」
「あ!絵師さん来たみたい」

画材を持った絵師が部屋に入るとそこからは忍耐との戦いだった。指定された場所に座り描き終わるまで動けないからだ。そうと分かっていながら何故彼等は私たちの目の前で食事をするのか。時折茶々が入っても来るしこれは喧嘩を売られているとしか思えない。逆にレイは何も気にしていないらしくニコニコと笑っている。

「ぶはっ!顔が怖いよエルヴィン!」
「茶々を入れるな黙りなさい」
「あは、バレた」
「つかれた?」
「ん?これくらい平気だよ」

互いに絵師の方を向きながら会話をする。
扱いの差が激しい。

「レイは?」
「大丈夫」
「なら良かった」
「しりとりしよう?う」
「そうだな…馬」
「まど」
「ドア」
「あり」
「りんご」
「ごま」
「おいエルヴィン、その強ばった顔どうにかならねぇのか」
「リヴァイ、いいから口を閉じてなさい」
「ふふっ」
「レイ?」
「楽しいね」
「そうだね」


*


「懐かしいな」

1枚の古びた羊皮紙に描かれた絵。
それを見つめる1人の女性。

「楽しかったね」



視線の先に描かれている200年前の自分は、確かに笑っていた。

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