『──それでは最後に生徒会長より』

司会の言葉に1人の生徒が席を立つと、来賓や教員に礼をし壇上に上がった。
女子の制服であるセーラー服をキッチリと着こなし長い髪は絹のように美しい。

「あー、マイクテスマイクテス…ようこそ進撃高等学校へ!!!

「ぶっは!テンション…!」

「今日も元気だ」
「学校に泊まった日は大抵アレだからな」

各々の席でこんな会話と反応がなされている事など会長は知らないし、知ったとしても全く気にもしない。

「生徒会長のレイ・ローゼンハイムだ!話したい事は山程あるんだが短くまとめよう!諸君、この素晴らしき学校で一生の思い出に残る美しき青春時代を過ごしてくれたまえ!以上、私の話し終わり!」

そして最初の時みたいに一礼をして自分の席へと颯爽に戻っていく。この場全員が先程のスピーチを聞いて会長に何を思ったかなんて本人は知らない。知らなくていいのだ、だってこの学校さえ好きになってくれればいいのだから。


*


入学式は基本午前で終わり。
進撃高校では毎年昼食を食べてから下校という流れになっており、校外でも美味しいと有名なバイキング式の食堂はたくさんの生徒で賑わっている。
その中でも新入生のエレン・イェーガーはそわそわと自分の番を待つ。何人か前の生徒も頼んでいるが…早く並んだから大丈夫だろう。入学したら絶対に食べたいと思っていた不動の人気『ミックスフライ定食』それはもう楽しみに待っていた。

が、

「マダム、ミックスフライ定食1つ!」
「はいよ。じゃあ完売ね」

え?

「…」

そんな数秒前のワクワク感はこの言葉のおかげですぐに消え去さる。
いや俺がもっともっと、早く並べば良かっただけの話なんだが!
それでもチクショォォォ!
すげぇ食べたかった!!
食堂での初メシは!!!
コレと決めてたのに!!!!

「食べ…たかった…!」
「ん?もしかしてこの定食をかな?」
「へ?え!?す、すみません何でもないです!」

しまった!思わず口から本音が漏れてしまった。慌てて口を手のひらで塞ぐも遅し。ちゃっかり相手に聞かれてしまったようで恥ずかしい。
振り返ったこの人。
襟のバッジからして3年…じゃねぇ!め、めちゃくちゃ美人…!
同じ学ランなのにどうなってんだ。

「入学おめでとう!というわけで私から君へのプレゼントだ!食べてくれ」
「え?」

ズイッと定食が差し出される。

「い、いや!そんな…もらうわけには!」
「いいさいいさ!後輩の楽しみを奪うなど私も気が利かないね」
「でも、」

すると先輩は片手で盆を持ち、もう片手で俺の手をギュッと握り見つめてきた。シチュエーション的には王子がお姫様の手を握って周りはキラキラが漂う的な。な、なんだ!?この場合俺がお姫様なのか!?それより相手は同性なのにとてつもなくドキドキする。

「会長命令だ、遠慮なくお食べ?」
「ッは…はい…!」
「よろしい、いい子だ」
「レイー!いたいた!」
「2人は?」
「もう食べてるよ。ソニーとビーンも一緒に」

ドキドキしたままミックスフライ定食の盆を受け取った。

「あ!新入生だね?」
「1年のエレン・イェーガーです!」
「よろしく!私はハンジ・ゾエ!生徒会で会計やってんだ。んでこっちが会長のレイ・ローゼンハイム!」
「初めましてエレン!そしてよろしく」
「よ、よろしくお願いします!」
「それではまた!マダム、ラーメン1つ!」

ん?生徒会長?
入学式でスピーチした人…だよな?
あれ?待てよ?その時この人セーラー服着てなかったか!?会長は俺の混乱を気にもせずさぁ昼を食べよう!と挨拶をしてラーメンと共に去っていった。

「…な…!」

何なんだあの人は!!!

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