『血が飲みたい』
レイの有名な独り言。
腹が減ったではなく血が飲みたいと。
随分趣味が悪いモノ飲みてぇんだなと言ったらレイは冗談冗談と返してきた。1回2回の発言ならまだしも、何回も血が血がと言われたら頭の中にクソでも詰まってんじゃねぇかとさすがに思う。まぁなんだかんだコイツはクソだからと勝手に1人納得していた。
でもレイは確かに変わり者だ。血が飲みたい発言に加えて悪戯に誰かの首に噛みつこうとしたり、とにかく奇妙な言動をよくする。この世は変人だらけとはよく言ったもので。
『ギャーー!!』
『おぉ?そんな驚いて』
『ちょ、レイさん!いきなり何するんですかあなた悪魔ですか!?』
『なんだそりゃ!んなわけないじゃん』
悪魔とかいるわけねぇだろ。
しかしいきなり首噛み付かれたらオルオだってこうも言いたくなるのは分かる。分隊長の立場忘れて昼間っから他の班の部屋にフラフラフラフラ。とりあえず気が散る帰れとこの場は蹴り出しておいた。
*
「あ゛ー…血が飲みたい」
「ニャー」
「おっ、ハンジ」
誰もいない自分の部屋に茶猫が突然現れる。
かと思いきや、数秒のうちにその猫はハンジ・ゾエへと姿を変えたのだった。茶の毛並みにこげ茶の目が綺麗に光る。
「あんまり血だとか物騒なこと言わない方がいいんじゃない?」
「だって飲みたい」
「ここ調査兵団でしょ?ターゲットなんていくらでもいるじゃん」
「ここで流血沙汰起こしたら大問題だろ。よいしょ…っと、」
バサッ…!
ベッドから起き上がったレイの背中から漆黒の大きな翼がはためく。
「そもそもさ、どうして俺は兵士やってんの?」
「さぁ?」
「悪魔のままで良くないか?」
「私はマスターからレイのお目付役を任されたからそれをするだけだし」
「…親父も何考えてるんだかね」
「とりあえず流血沙汰になるのが嫌なら此処じゃないとこで『食べたら』?」
「そうだな、行くか」
窓に足をかけたレイの姿は一瞬で消えた。
*
「あ?」
背中蹴られて痛い!でも部屋にいるから〜の声からそんなに時間が経っていないのにレイは部屋にいなかった。代わりにいたのは茶猫。そして開け放たれた窓。猫?野良?近づいても逃げないからひっそりとアイツに飼われてる?その前にどうやって此処まで来たんだ。
「どこから来た」
質問には答えず毛繕いをしている。
「それより何処に、?」
猫の傍らに落ちていたもの。それは羽根。真っ黒の羽根。最初はカラスの羽根かと思ったが違う。手に取りまじまじと見つめた。
「見たことない羽根だな」
チラチラと猫に羽根を振ってみると興味があったのか目で追っかけてきた。
でも見たことある。
そう、例えば、
「…悪魔の羽根?」
ポツリと呟く。けどそんな筈ない。悪魔なんて架空の世界で生きてる生き物。いる筈がない。猫に聞いたって仕方ないが不思議と確認せずにはいられなかった。
「お前…悪魔に会ったことあるか?」
猫はただニャーと鳴く。
黒い羽根は風に吹かれ粉のように溶けていった。