(ついてない人は学生ミケ)


『勉強ばっかで飽きたから息抜きしよう!』

そう誘いを受けたのが3時間と少し前くらい。後期の試験1週間前だったのですぐ帰宅しようと思ったが相変わらずマイペースなハンジに拒否権なしの決定事項とされた。ちなみに俺はこう見えて学生だ、こう見えて学生だ。大事なことは2回。

『まぁ日直やら色々あるだろうから5時に何時もの場所で!』

駅構内を歩きながら場所を思い出す。
駅前のファーストフード。
そういえば前に『リヴァイ、改札出たら右だからね!左じゃねぇよ話聞けよ!右だよ右!そんなんで1人で来れんの?嫌だな超不安なんだけど!』とハンジが電話をしていたな。あぁ見えて方向音痴だから笑える。改札を出たら右。次に階段を上がる。駅から出て、向こう側に見える派手な電飾が施された店がそうだ。

「…すごい雨だな」

しかし、運悪く大雨が降っていた。天気予報で確かに夕方から雨が降ると言ってはいたが予想外の量だ。雨の音しか聞こえない。スマホで時間を確認したら4時52分。間に合わないことはない。一応こんな時の為に傘を持ってきていたからだ。備えあれば憂いなし。

バサッと傘を広げて一歩踏み出した。それと同時に肩に雨が当たる。これだけ降っているのだから少しは仕方ない。

一歩、また濡れる

一歩、また濡れる

一歩、また濡れる

「?」

おかしい。これはさすがにおかしい。横吹きの風は吹いていない。濡れないなんて事は有り得ないにしても傘を差していてこれだけ濡れるものだろうか。上を見上げた。

「あ」

穴が、開いていた。

「………」

今これほど恥ずかしいと思ったことはない。恥曝しもいいとこだ。穴に傘が開いてる、だと?違う支離滅裂になった。訂正だ。傘に穴が開いてる、だと?だが何処かに雨宿りという距離でもない。もう目と鼻の先にあるのだから。

「………」

行くしかない。

「はぁ、」

一呼吸ついて、青になったばかりの横断歩道を猛ダッシュで駆け抜けた。もちろん『傘を差しながら』だ。よし、ここを渡り切ればあと10秒もかからない。俺はなんかもう半ばヤケクソに走って、なんかもう半ばヤケクソに店の中に入った。雨の音が消えて有線が耳に入ってくる。眼鏡と方向音痴は既に到着していたみたいだ。

「あ!来た…あれ?」
「何がどうしてそんなに濡れてる」
「知らん」
「ちょ、知らんてミケ」
「傘持ってなかったのか?」
「持ってるが持ってない」
「どういう意味だ」
「腹が減った、何か奢れ」
「会話になんねェェエェェ!」


雨漏り傘の木曜日

ついてない。本当についてない。

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