『もう嫌だ。生きたくない』

そう言っていた。独り言の様に。
何度目かの壁外調査が終わった時からだと思う。朝起きたら同室のレイがいなかった。ので調査兵団の中で一番高い場所へと向かった。何故高い場所なのか上手く説明は出来ない。生きたくないのなら…そうだろう思ったから。案の定レイはそこにいた。立体機動を足元に置いて私に背中を向けて。

「レイ」

呼び声に振り返る。

「飛び降りるの?そこから」
「大人になりたい」

もう子供のまま生きるだなんて耐えられない。だから死んで大人に生まれ変わるんだ。そうしたら巨人も仲間が死ぬ事も怖くなくなる気がするの。ここから飛び降りて目覚めれば、大人になってるだろうから。

「要するに?」
「全部嫌になった」
「それであなたが死ぬと」
「誰かを巻き込むよりも1人で死んだ方がいいと思う」

あぁそう。
正直どうでも良かった。
死にたいなら勝手にそこから落ちて死ねばいい。どうしてそんな事を。いや、理由を自ら分かろうとしないくらいにどうでも良かった。でも本音を静かに話すレイの目を目の前で見てたら、数秒後、数分後の、レイのいない世界を想像したら(ひどく悲しくなったから)

だから漠然と思った。
死んでほしくないと。

「死ぬ必要なんてないでしょ?」
「あるよ、じゃあね」
「死んで生まれ変わって、また子供だったらどうするの?」
「その時はまた死ぬ」
「もういい。レイは疲れてるの」
「…何が、」

生まれ変わったところで、どんな空間にいたって嫌な事は一生あり続けるから。知る人が誰もいない場所に夢見た大人として生まれ変わったって、独りだったとしたら、それは嫌な事なんか比べものにならないくらい寂しいことだと私は思う。
だってレイ独りは、かわいそうだから。

「そのまま生きよう?」

(俯いた彼女は、泣いていたと思う)

「レイ、約束する」

大丈夫。嫌々だってなんだって、いつかはみんな必ず大人になるんだから。大人になったとして、それでもたくさんの嫌な事に囲まれてどうしようもなく死にたくなったら、その時は私がレイと一緒に死んであげる。だからもう少しだけここにいよう?

ねぇ、お願いだから。

柔らかな指先
私をおいて、大人にならないで。