夜7時。
世間様も夕飯の時間だろう。
今日のおかずは何だろな。

さぁみんなでご一緒に。
いただきます!

「煮えるまでもう少しかな?」
「お爺ちゃん、白菜食べたい」
「お!いれよっか!」
「ちょっといいですか!」

控えめに挙手をするが声は決して控えめじゃない辺りがエレンだった。

「これは…その、何という料理ですか、ね?」

広い和室のド真ん中に置かれたドデカい鍋でグツグツと音を立てる食材たち。おかしい、美味しそうなにおい以前にまるで無臭だ。

「ハハハ!何ってどのご家庭でもやってる普通の鍋さ」

普通の鍋はこんなに湯気出ないですお父さん。

「ハハハ!具材を少し大きめにするのがローゼンハイム家伝統だ」

普通の鍋は具材丸ごと入れないですお父さん。

「鍋!実に素晴らしい!家族団欒には欠かせないアイテムだな!」

どう見てもビッグバンですお父さん。

「そそそ、そうですね…!」
「いい加減腹が減った」
「リヴァイはチビだから食ってデカくなんないとね、もう年齢的に伸びないだろうけど」
「関節へし折るぞクソジジイ」
「あ!ごめんね飲み物も出さないで、お茶でいいかな?」

テキパキと茶碗や箸の準備をミケさんとしているレイが出してくれたお茶、メチャクチャ美味くて驚いた。たぶん、老舗とかの店のなんだろうな。
数分後、どうやら例のモノが出来上がったらしい。相変わらず無臭だ。

「見て見て!いい仕上がり!」
「はいエレン、遠慮しないで食べてね。熱いから気を付けて」
「お、おぉ…イタダキマス…!」
「召し上がれ」

丸ごと玉ネギに丸ごとナス、肉の塊、丸ごとトマト。箸がスッと通るくらいに柔らかく煮込んである。ローゼンハイム家の人々は鍋は丸ごと食材を食い尽くすモノだと思ってるのか?いや、鍋はそれぞれの家庭の個性が出るもんだから…その前に!丸ごとキャベツを美味しそうに食べてるレイが可愛いとだけ言っておく!!

「うん!美味しい!」
「マジで!?」
「確かに前のより美味ぇな」
「この醤油ベースのスープがたまらない、さすが父さん!」

(醤油ベース?醤油ベース!?)

「わーい!爺ちゃん頑張った甲斐あったよ〜」

とりあえず俺の感想。

恐ろしいくらいに味が全くしない。

「美味しいかい?まぁ私は2人の交際を認めたわけじゃないんだけどね」
「今それを言うんですか!!?」

(あれ?)

お爺ちゃん、お父さん、お兄さん2人、妹、レイ…そうだ、前にお邪魔した時から思ってた。何となく俺の視線に気付いた彼女は笑っている。

「前に母親いないって話したでしょ?」
「言ってたな」
「この人」

見せてくれたスマホの画面にはレイと妹を抱き締めて笑っている女の人。お世辞なしにすげぇ美人。どうりで娘も美少女なわけだ。

「美人…」
なんだって?
「ヒィィィ!!」
「あ、始まったぞコレ」

グワシッ!!と肩をお父さんに掴まれる。
怖い何なんだ怖い!いやお母さんのこと確かに美人だとうっかり声に出して言っちゃったけどレイが一番ですから!と言おうとしたら物凄くキラキラした目で見られた。

「私は2人の交際を決して認めたわけじゃないが「さり気2回目ー!」愛する妻の美しさを分かってるとは!」
「……へ?」
「だがね…彼女は数年前に病気で他界してしまったんだ。最初から最後まで美しく優しく綺麗な女性だった。料理もそれはそれは美味くt♪☆¥▲▽□♂〒♂♀■Σ★●∀ロ&※△□●―‖…」

(今日は何分語るんだか)
(さぁな、レタス食いてぇ)
(お爺ちゃん、ネギ食べたい)
(はいはいお鍋に入れようねー)

「というわけでローゼンハイム家は妻の料理が大好きだったんだ」
「そ、そうだったんですね…!」
「1時間、だいぶ抑えた方だな」
「オムライスが一番好きで今食べたいくらいなのに生憎家族の中で作れる者がいなくてね…」
「あ、あのー…」
「ん?」
「良かったら俺…作りましょう、か…?」


*


「すごい美味しかった!」
「でしょ?本当に料理上手なの」
「美味かったな」
「不味くはなかった」
「食べれる味ではあった」
「素直じゃない」
「私は2人の交際を認めたわけじゃない」
「最後おかしいよね?」

さぁみんなでご一緒に。
ご馳走様でした!

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