「本人以外は退出をお願いします」

調査兵団でいつも世話になってる、女性ながらもハキハキとしていてとても頼りになる医師だった。退出?男だから別に退出しなくても…女だから気を使ってくれたのか。何を思ったんだか俺は。見送った後すごすごとベッドに戻りいざ診察開始。

「熱っぽさが続くそうね」
「吐き気もたまに」
「他には?」
「腹痛?」
「そう。じゃあ、」

その他症状をなるべく事細かに説明。
先生は診察を交えて俺の話を聞きつつ紙に何かを書いていく。退出をお願いしますから何分経ったか分からないが…あなた『あと数日で死にます病』にかかってるわよなんて診断結果だったらどうしたらいいんだ。すんすん。

「お待たせしました。お入りください」

まだ死ぬ年齢じゃないのに、勝手に繰り広げた妄想と独り言をしていたらいつの間にかエルヴィン達が部屋に戻って来ていた。全然気付かなかった。診断の結果ですが…その言葉に身構えてしまい掛けられた布団を強く握ってしまう。
まだ死ぬ年齢じ「妊娠してますね」

………

……



は?

「………に、ににに妊娠?」

え?妊娠?女になった俺が?
マッタクモッテイミガワカラナイ。
予想の斜め上過ぎる診断結果にハンジは口をあんぐりと開け、エルヴィンはたまたリヴァイまでもが目をパチクリとさせている。それでも立ち直りの速さはさすが団長というべきか。顔は動転一色だが。

「ほ…本当なのか?」
「間違いありません」
「…」
「ちょ、嘘でしょ、エェエェエェ!!?!」
「ハンジ分隊長ったらそんなに驚いて、女性になら誰しも起こる事じゃありませんか」
「そうなんだけどね!?いやだって、いや驚くよ!!」

元は男なんだもん。

さすがにその事実を言える筈もなく。
先生は俺達の意識を現実に戻すかの様に手をパンパンと軽く叩いた。だが表情は明るい。

「ミケちゃんおめでとう」
「お、おおお…おめ?」
「相手の方にも伝えなきゃね、お父さんになる人に」
「え?あ…」

オトウサンニナルヒト?
お父さんが…誰かって…そりゃもう…みんなの視線が自然と1人の男へと向かう。当の本人は腕を組んだままパチクリと瞬きを繰り返していた。

「俺だな」
「…」
「あら!リヴァイ兵長でしたか」
「あぁ」
「おめでとうございます、喜ばしいことね」

喜ばしい、こと。
服越しに腹に触れてみる。
ここに、新しい命が?信じられん。
信じられないけれど…もう片方の手で頬を思いっきり抓ってみたが物凄く痛かったので現実というわけだ。これからどうしなければいけないかを先生が話してくれる中で、俺は手を当てたままただ外の景色を眺めていた。


*


「…」

あの後、お前達の方が病気なんじゃないかと言いたくなるくらいにすんなりと状況を受け入れてくれたエルヴィン達。ナナバとモブリットにはいずれ協力してもらう事になるからと後日伝えるで決まった。今は部屋に俺とリヴァイだけ。2人だけで話したい事もあるだろうと。

「…何と…言ったらいいか…」
「特殊な状況下だから無理もねぇよ」
「リヴァイは…案外平気そうだな」
「男の身体でこうなったら動転もするが今は完全に女だ。有り得えない話じゃねぇだろ」
「まぁ…そう、なんだが…」
「しかしガキが出来るとはな」
「頭の隅にすらなかった」
「驚いてないと言ったらもちろん嘘になる」

その時、この子の存在をリヴァイは受け入れてくれるのだろうかと反射的に思った。
(命を授かるとこんな精神になるのか?)

「…俺は…怖い」
「…」
「中途半端に精神だけ変わってないから頭の中がゴチャゴチャだ」

どうしよう、よりも漠然とこれからどうしたらいいのか。
もし産まれたとして急に俺が元に戻ったらどうなる?育てられるのか?性別がそのままだとしてもこの子には話すべきなんだろうか。まだ産まれてもいないのにあれやこれや良くない感情がよぎる。間髪入れずに出てくる不安の言葉。こうなるなら精神まで女になってくれた方が良かった。
するとリヴァイは布団の中に手を入れて俺の腹に手を当てた。

「…リヴァイ?」
「さて、男か女か」
「?」
「金髪黒髪、目は黒か青」
「…なんだ、それ」
「何も心配するな」

(おかしい)
(たったそれだけの言葉で)
(なんだかあったかくなって)
(どうして涙が出るんだろう)

「だからテメェも元気に産まれてこい」


受け入れるまでには時間がかかるでしょう。
恐ろしく不安でしょう。
束の間の喜びの傍ら、きっとたくさん泣いてもう嫌だと何度も言われることでしょう。
それでも信じています。
あなた達に会えることを。
心から、望んでいます。

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