悲しいかな。


感情が分かりづらい人だとよく聞くが果たしてそうだろうか、そうは思えなかった。顔に出なくても言葉の所々に剥き出しの感情が出ているからだ。

此処に来てから敵意を遥かに上回る、むしろ殺意程の感情を目からも口からも向けられている。と言っても向こうから話し掛けてくることなど事務的な事だけだが。

「忙しそうだから持ってきてやった」
「すまない」

団長室で頼まれていた物を手渡す。
忙しそうだから、そんなものは口実だ。机のすぐ近くにあるソファに腰を下ろして資料を見ているミケは相変わらず反応がない。無反応。人を空気みたいに扱いやがって。仲が良い悪いだなんだ以前の関係とはいえ、ここまでの対応をされると少しばかり腹は立つもので。

「喋れねぇのかテメェ」
「話す必要が無い」
「デカい図体のくせに出てきた言葉はガキの我侭かよ」
「好きに言ってろ」

会話にすらならない会話を終え、部屋に戻ると立ち上がる。
すれ違い様にこちらを睨み付けてきた目は青かった。
ドアの閉まる音。

「いつもアレか?」
「そんな事は無いんだが」
「相当に嫌われてるらしい」
「悪い男じゃないんだ」
「だろうな」
「リヴァイ?」

首を傾げるエルヴィンを無視して後を追うように団長室を出ると思いの外遠くには行っていなかった。こちらが早足に近付いても反応なし。腕を引っ掴んで振り向かせようとしたが殴りかかってくる展開が目に見えてる。名前を呼んでも効果はないだろう。こういうのは単刀直入だ。

「おい、そんなに気に食わねぇか」

案の定ピタリと足が止まった。
振り向いた金髪から覗く青。
(綺麗だと思って何が悪い)

「そうだな、気に食わない」
「嫌いなんだろ」
「嫌いで収まればいいが」
「何したってんだ」
「奪った」

俺の居場所を。

「…お前さえ、」

ふらりと何処からともなく此処へ来たお前があっさりと奪った。全て粉々に壊された。これからどうしていけばいいか分からない。だから嫌いで殺意だってないと言えば嘘になる。どうしてくれるんだ。教えろ。人から大事なものを奪って何が楽しい。

「お前さえいなければ俺がエルヴィンの隣にいるはずだった」

あぁそうか。
やっぱりお前は。
でもな。
乾いていないのに声が出ない。
咳払いを一つ。

「そういうものだ」
「何が」
「どう思うのは勝手だが。お前ばっかり奪われた気になってるみてぇだから教えといてやる」

俺さえいなければ、か。
コイツはどうやら人は傷付く生き物だと教わらなかったらしい。

「エルヴィンさえいなければ、」


きっと、俺がお前の隣にいるはずだった。


「死ぬまで覚えとけ」
「…お前」
「それさえしてくれゃ何でもいい」

悲しいかな。
すれ違い様に合った目は青く美しかった。

True love is like ghosts, which everybody talks about and few have seen.

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