時は待たない。
人生は選択。


『勇敢に戦い命を落とした捜査官達へ敬意を払うと共に――』


兵団による追悼慰霊式が終わるとすぐに始まるいつも通りの流れ。そのおかげで仲間が死んだのかなんて分からないくらい。だから自分達がちゃんと覚えていないと本当に彼等は魂ごと消えてしまいそうで。

「…イーターだったとはな」
「あの子達はショックだろうね、不思議」
「不思議?」
「殺したのに悲しんでる」

屋上から見渡す景色は何も変わらないのに今日もこの青空の下で人間はイーターに捕食され、イーターは人間に抹殺されている。ハンジは目を合わすことなく景色だけを眺めていた。

「イーターは憎いけども親しい人がイーターだったら悲しみに変わるのかぁ」

人間てホント変なの。

「テメェも人間だろ」
「あははあ、そうだね」
「アイツ等はミケに聞かれたらしい」
「何を?」
「親しいヤツがイーターだったら殺せるかと」
「そう。リヴァイは出来る?」
「エレンにも聞かれた」

兵長は、出来るんですか…?大切なヤツがイーターだったら殺せるんですか!?

「ふーん。でもさ、本当に大切な人がイーターだったら…やっぱり悲しいのかもね」

天国から急に地獄に変わるってこういうことじゃない?ハンジは淡々と話を続ける。自分と身近になればなる程気付かなくて気付きたくなくて、そのくせ悲しみだけは大きくなるんだよなぁ。

「そういやリヴァイは…アリソン・レネ特等捜査官に憧れて兵団に入ったんだっけ?」
「あぁ」
「てっきりレイもそうするのかと思ってたけど」
「その気は更々なかったらしい」
「そっか」
「リヴァイ兵長!」

返事は第3者の声に遮られる。聞き慣れた声に入口を見れば松葉杖をついたエレンが立っていた。

「血相変えてなんだ、緊急の要請か?」
「っその、伝えたい事が…あって…」
「さっさと言え」
「…実は、」


*


【最重要機密 転換実験報告】
【被験者名 レイ・ローゼンハイム】
今回行った実験は、生身の人間へイーターの遺伝子を投与し細胞全体を身体の中で作り変えるというものである。姿形が瓜二つの両種であれ全ての実験体が拒否反応からの心肺停止、及び数日は容態が安定していたものの突如容態変化、死亡するといった結果に終わっていたが遂に上記の者がこの実験に成功した事をここに記す。
人工的に作り出されたこのイーターがどこまで私達人間の手助けとなり、突破口になるかは未だ不明であるが引き続き研究を重ね定期的に報告していく予定である。
なお、イーターの暴走脱走を防ぐ為、兵団のセキュリティレベルを2段階引き上げた事も報告する。

以上。
調査兵団研究所所長 ハロルド・ローゼンハイム
調査兵団研究所副所長 ルシア・ローゼンハイム


「…」

誰もいないこの孤児院。
今は自分の家となっている。
何度も何度も読み返した。


うーんとね、父さんも母さんもイーターに食べられちゃったんだ。

大丈夫、怖くない。あなたは何も悪くない、私があなたを守るから。

好きなの作ってあげるからたまにはこうして飲もうよ。

イーター?さぁ?俺にはよく分かんない。

こーら!また2人で悪戯して!こんなに怒られてんのに懲りないんだから!

えへへ!

何笑ってやがる気持ち悪ぃ。

ずっと仲良しだよ!

いつか私に何かあったら…レイの事、頼むね。

急にどうした。

あの子は何も悪くないの。

心臓だけ綺麗に抉り取られてる…

…アリソン…おいアリソン起きろ…アリソン!!

大事なことほど、見えないんだよ。


「…」

違うと、漠然とアイツだけはそうじゃないとずっと思っていた。いや、もしかしたら思いたかっただけなのかもしれない。分からない。

「レイ」

【対象への如何なる私情を挟む事を一切禁ずる、速やかに抹殺せよ】


全ては始まり、続き、そして終わる。

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