今日は奢りだと向かいのカウンターにいる女からグラスが差し出される。受け取ったエルヴィンは礼を言いつつ琥珀色の液体を1口飲んだ。毎回飲む度に思うのだがどれも美味しい。酒の目利きは天下一品といわれてるハンジが選ぶだけある。

「美味しいでしょ?」
「文句無しだ」
「結構高いんだけど格安で手に入れてきちゃう所がらしいっていうか」

露出が少ないエンパイアドレスに身を包んだミケは笑う。よく見れば客と酒を飲み談笑している他の女達も、同様に露出が少ない衣装で化粧も派手ではなかった。

「大々的に変わったな」

思い付いたら即行動がモットーであるこの館の主はある日を境に『金を貰う代わりにセックスをする』システムをすっかり廃止し『綺麗なお姉さん達と酒が飲める場所』だけでやっていく事にしたのだった。

「ロクでもない客を切るっていう目的もあったんだけど」
「やはりセックスと金が絡むと難しいから。今はどうだい?」
「毎日楽しい。他の子達もお客と仲良くやってるし」

あちこちから温かい笑い声と音楽が聞こえてきて誰もが楽しんでいた。肝心の貴族の情報収集はどうなったかというと方針がどうであれ、彼等が彼女を好いていることに変わりはないので今でも熱心に此処へ来ては使える情報を落としてくれている。

「セックスしないのにベラベラ話して口が軽いにも程があると思わない?」
「君は魅力的だからね」
「ふふ、それは口説いてるの?」
「まさか、知れたら殺されてしまうよ」

グラスを空けたエルヴィンは言う。
よく笑うようになったと。
それはきっと彼女のことを大切にしてくれる存在に出会ったからだろう。
2人が話しているといやぁ飲んだ飲んだ!
ご機嫌なハンジがカウンターをバシバシと叩く。

「快勝快勝♪」
「飲み比べ好きなんだから…もう何回目?」
「5?6?覚えてない!」
「噂には聞いていたがここまで強いとは」
「こんくらい朝飯前!エルヴィンも今度私と勝負してみない?」
「あぁ、よろしく頼む」
「わーい!」

はしゃぎながらまた飲み比べをしに客の元へ行った主を見送ったミケは呆れながらも楽しそうだ。

「うまくやってるみたいだね」
「お陰さまで」
「時折すこぶる我侭になるから」
「体験済み。エルヴィン」
「ん?」
「リヴァイと会えて生まれ変われた気がする」
「まだまだこれから」
「そうだね」
「良ければ一緒に飲まないか?奢るよ」
「うん、喜んで」

もう何を怖がる必要もない。
演じる必要だって。ありのままで生きていける。たったそれだけ。でも私にとっては大きなこと。感謝してもしきれない。私を生まれ変わらせてくれたの。ありがとう。
グラスとグラスの当たる音が響く。

「おめでとう」
「誕生日とかじゃ…ないけど?」
「生まれ変わったのなら2度目の誕生日があったっていいだろう?」
「ふふっ、ありがとう」

その時館の扉が開いた。
ミケは中に入ってきた人を見て微笑む。
人類最強で優しいと思いきや時折すこぶる我侭になる兵士長。

「リヴァイ」

大好きなあなた、本当にありがとう。
そしてこれからよろしくね、新しい私。


End

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