【女体化ミケ】


目の前のリヴァイは寝ていた。すん、と鼻を鳴らす。会議だ資料だ何だと激務をこなしていたら久方ぶりに重い疲労がきて、2人して夕食そっちのけで寝たんだった。寝始めた頃と同じで辺りは薄暗いまま。実はそんなに時間は経っていないんだろうか。

頭は腕枕をされているし身体は腕が回っているので動けない。無理やりなら動けるにしてもわざわざ起こすことはないとそっと声を掛けてみた。

「リヴァイ」

反応なし。
真っ黒な髪に触れてみる。
あ、少し動いた。それだけ。
すんすん。じっと見つめても起きない。それにしても寝顔を見れるのは貴重だ。普段は『リヴァイのせいで』俺の方が圧倒的に早く寝てしまうから。

「…」

いつだって、何事もそつなくこなしているものの疲れが溜まらないはずがない。緊張の糸が切れたように爆睡している。だって頬をつついても引っ張っても起きない。頭を撫でても。前髪をかきあげて額を丸出しにしても。
リヴァイにこんな事を出来るのは俺だけだと思うと不謹慎ながらも少しだけ嬉しかった。この眠りで少しでも身体が休まってくれるといい。本当にいつも、

「お疲れさま」

何かが触れた気がしてパチリと目を開くと、おはようとふわりと笑うミケがいて。それを見て不思議と安心した気持ちになった。まだ眠いと言うのさえ億劫だったので、何も答えず抱き寄せるようにして首筋に顔を埋める。好きなにおいがした。

「くすぐったい」
「…」
「夕食、食べ損ねたな」
「…」
「良ければ」

モゾモゾ動き出したので顔を離すと俺達の顔の間に小さな箱。このシンプルなデザインは見た事がある。確か壁内ではかなり有名な店のだったような。

「…チョコ?」
「お前に買ってきた」
「俺に?」
「バレンタインだから」
「そうか…」

食わせろという意味で口を開ける。

「?」
「あ」
「自分で食え」
「別にいいだろ」
「…まぁ…今日くらいは…」

箱を開けてる時も腕を緩める事はしない。
動きにくいと言われたがそんなの知るか。
すると1粒のチョコが俺の口元に運ばれたのでミケの指ごと食べた。

「っ…」

口の中で溶けたチョコが唾液と混じって喉の奥に流れ込んでくる。どこまでも甘ったるく感じるのはチョコなのかコイツの指なのかは分からない。

「甘ぇ」
「…指がチョコまみれ」
「そうだな。舐めてやろうか?」
「遠慮する」
「舐めて欲しそうな顔し「してない」

俺の為に買ってきてくれたのは事実なので礼はちゃんと言った。聞けばクソメガネ達もコイツにちょうだい!としつこく集ったらしいので後日ぶっ飛ばすことにする。すっかり指が綺麗になったミケがまた口元にチョコを差し出してくる。食べたはいいがまた眠気が襲ってきた。

「味は?」
「美味い。が、眠ぃ」
「実は俺も眠い」
「なら寝るぞ」
「残りは?」
「また起きたら貰う」
「わかった」

存在を確かめるように抱き締める。
甘いチョコ、愛しい人。あたたかい温度。そしてキス。
やがて2人は眠りの世界に落ちていく。
押し寄せてくるなんて事ない。けれど大切な…あぁこれが幸せというやつか。



夢の世界でも一緒にいられますように。

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