【ferocious主人公】


「このワイン美味しい」
「買って正解だった」
「今日バレンタインじゃん」

夜。2階。レイの家。
明日が休みなら泊まれば?
珍しく幼馴染みの提案を了承したリヴァイは、手土産にと帰りがけに同僚に教えてもらったワインを買っていった。メシは作れるヤツがいるので心配なし。ここだけの話にしておくがレイが作るメシより美味いモノはない。

「たくさん貰えたの?」
「さぁな」
「あ、冷蔵庫にあるんだった」
「それ前にも聞いたぞ」
「なら話が早い」
「チッ、次何か飛び出したらぶっ殺すからな」

めんどくせぇを体現した舌打ちを残し冷凍庫を開けたが何も飛び出してこない。代わりに真っ白な箱が目に入った。レイ曰くコレが俺に渡したいモノらしい。どうにも疑惑が消えないまま箱と共に戻る。横から開けろコールが凄まじかったのでそれなりに距離をとって開けてみた。御開帳。

「いやー頑張っちゃったよ」
「…」
「今回は力作…リヴァイ?」
「…」

なんだコレは。

「何ってガトーショコラ」
「それは分かる」
「甘さ控えめに作ったけど」
「そうじゃねぇ、コレだ」
「コレ?」

ガトーショコラを指差す。
問題はレイが作ったケーキそのものではなくそこに粉砂糖で描かれていた何かだった。

「幾何学模様か?」
「違うって、リヴァイの似顔絵」
「ふざけんな」
「え?そっくりじゃん」
「顔じゃねぇよ」

似顔絵とリヴァイを交互に見るレイ。

「笑ってるお前をイメージしてみた」

お前がそれを言うか。
笑ってるどころか幾何学模様どころか、理科の教科書に載ってたミジンコに見えてきた。この絵(?)はひどい。俺ですらもっとマトモに描ける。確かに昔からレイは個性的なセンスを持ってはいたがここで遺憾なく発揮されるとは。もはやセンスなんて良く言い過ぎた。つまるところコレはひどい。哀れむしかない。

せめて胃の中で成仏しろとの思いを込めてフォークでサクリとガトーショコラを1口。味は全く問題ねぇのにな。そうか、俺は人間に見られていなかったのか。

「幼馴染みがミジンコに見えんだな」
「ミジンコ!?」
「明らかそうだろ」
「ひどい」
「こんな風に描かれた俺はどうなる」
「そんなに似てなかった?」

もう黙れと言いたい。自信満々のレイに更に倍増させた哀れみの視線を送った。いっぺん死んで絵心取り戻してこい。まぁ味は美味いって事でチャラ…にするのはこちら側の犠牲がデカ過ぎる。

「そんなにバカにするなら来年お前も描いてよ」
「忙しいから断る」
「あーそうきたか。あはは!実は俺より下手なんじゃないの?」
「おい」

この言葉は聞き捨てならない。

「テメェのは絵か?あ?」
「近っ怖っ!!で、でも美味い?」
「美味い」
「なら良かった」

褒められるとすぐケロッとするのがレイ。
ちょうだいと言われたのでフォークを渡す。
そういえばバレンタインは女から男に渡すモノ…なんて概念コイツにはねぇな。

「今年はガトーショコラだったけどさ」
「あぁ」
「来年はリヴァイが食べたいお菓子作ってあげるよ」
「考えておく」
「さてさて!楽しみだなぁホワイトデー!!」

それが狙いだろうなとは思ってた。



欲しい時計があるんだけど。
自分で買えクソ野郎。

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