845年。
超大型巨人によるシガンシナ区襲撃は、100年の平和を守っていた人類の存亡を再び危機に陥らせた。

「レイって、」

隣に座っているレイ・ローゼンハイムは104期生の中でも群を抜いて強い。身長は俺より全然低く、どこに人を投げ飛ばせるだけの力があるのか聞きたくなる程に細かった。性格は謙虚、温和で所謂誰にでも好かれるタイプ。顔は…可愛いと思う。

「自分のこと話さねぇよな」

でも俺が知っているのは表面的に流れてくる情報それだけ。レイ自身はまるで霧の中にいるみたいに掴めなかった。もちろん言ってすぐ後悔。誰にだって言いたくないことくらいある。

「あ!違う悪ぃ…その、言えって意味じゃなくて…」
「あんまり話さないと誰だって気になるよね」
「…お前の強さの秘訣とか?」
「ふふ、それが知りたいの?」

屈託なく笑う顔につられて俺も笑う。
そりゃ知りたいことはいくらでもある。誕生日に好きな食べ物?とか。他にも出身、どうして憲兵団に行かずに調査兵団に入ったのか。たぶん死ぬまで教えてもらえそうにないけれど。するとレイは真顔で見つめてきた。

「あー…っと…レイ?」
「知りたい?」
「え?」
「私のこと」
「そ、りゃ…教えてもらえんなら…な、なんでジッと見てくんだよ!」
「じゃあ1つだけ教えるね」

耳打ちされた一言。息が耳に当たり、口から紡がれた言葉が奥へと入ってきた。


「     」


「…どういう意味「話しは終わり」

突然元の世界に戻された様に感じ、ハッと気付けば腕を組んで立っているアニがいた。ライナーとベルトルトも。いつの間に近くにいたのか。変わらずレイはクスクス笑うと兵舎を指差した。

「アルミン呼んでるよ」
「お、おう」
「また後でねエレン」

遠くなっていく背中。
また後で。
どういう意味で自分は言ったのだろう。
人間としてか、
はたまた巨人としてか。
ヒラリと振る手に冷たい風が当たる。今日も寒いなと思っていたら温かい何かに包まれた。

「手、すごい冷たくなってる」
「そうだね。アニの手はあったかい」
「レイ」
「なに?」
「いつものお前でいいんじゃねぇか?俺達といる時くらい」
「僕はそう思わないけど」
「ん?…あぁそうだな、あいつらは知らないんだった」
「でしょ?」

誰にでも優しくて謙虚、温和で強い、が今みんなに認識されてる私なの。それが揺らぐようなことがあっちゃいけない。だから3人も全部が終わるまではこの私に付き合ってあげてね。

その時が来たら全部なくなるんだから。
同期って言葉も友達って言葉も。
残るのは敵って言葉だけ。
4人は兵舎へ歩き出す。

「傍から見たら相当性格悪いんだろうね」
「またド直球に」
「レイのこと言ってるわけじゃないけど」
「分かりにくいなぁ」
「信じ切ってるエレンが悪いんじゃないかな?」
「そういうもんか」
「ふふっ」

そ う だ よ
こ う い う こ と は ね 、
騙 す 方 じ ゃ な く て
騙 さ れ る 方 が  い の よ

- ナノ -