「さ、上がって上がって!」
有名だとは知ってたしジャンからも聞いていた。レイがその家の長女だってのも昨日ちゃんと聞いた。だからそれなりに広い家だろうなと漠然に思っていたが、いたが。
「お…おぉ…お邪魔します…!!」
なんかスゴイ、スゴイ。
所謂1等地と言われてる場所。
人の家に上がるまでにこんな時間かかったのは生まれて初めてだ。庭も専属の庭師がいるらしく手入れが行き届いていて池では鯉が泳いでいた。そんで到着と共に現れたのがこのデカい屋敷。
一言で『とりあえずスゴイとしか言い様がない日本家屋』
広い!先が見えねぇ!玄関俺の部屋以上ある!何坪あんだよ!飾ってある盆栽とか置物とか鑑定団に見せたら「いい仕事してますねぇ」のコメントしか返ってこないと思う。
たわいもない話をしながら長い廊下を歩くがそれ所ではない。聞けば道場が3つもあるんだとか。待て待て3つ?普通1つじゃね?あ、そもそも普通のご家庭にあるわけねぇか。話を戻して家で剣道、柔道、合気道の道場を開いていてそれぞれの師範がお父さんとお兄さん達なんだそうだ。
「ごめんね、道着で迎え行っちゃって」
「似合ってる!!」
制服の時と違い、長い髪を1つに纏めて可愛いかった。
「レイは空手だよな?」
「うん、でもまだまだ!もっと強くなれるように鍛錬中です」
そんなこと言ってるが知ってるぞ!
レイ・ローゼンハイムの名前スマホで調べたら◯◯大会優勝の文字がこれでもかと出てきたのを!すげぇ!俺の彼女は可愛い上に強いとか!
「でもエレンのことは私が守るから!」
「レイ…!かっこよすぎる…!!」
「いらっしゃーい!」
その声に前を向けば茶髪の眼鏡の人と、金髪の背が高い道着の人。慌てて頭を下げる。
「初めまして!エレン・イェーガーといいます!」
「おっ、レイの彼氏!」
「紹介するね。兄のミケとハンジお爺ちゃん」
「よろしく」
「こちらこそよろしくお願いしま…え??」
は?眼鏡の人が??お爺ちゃん???
「今日エイプリルフール?」
「アハハ!面白い子!孫がいつもお世話になってます」
「嘘ですよね?」
「ホントだって!ほら免許証」
「嘘だろオイ」
年齢詐欺通り越して本物の妖怪に会った気分。
嘘だろだってお兄さんと同い年くらいにしか見えねぇよ!!バケモノ級に若い。有り得ない。最早俺より若く見える気がしてならない。テレビの衝撃スクープとかに出れるんじゃねぇか。
「みんな稽古終わった?」
「あぁ、リヴァイとミカサは何処行ったか知らないが父さんは客間にいるぞ」
「わかった」
「後でお茶とお菓子持ってくからゆっくりしていってねエレン」
「ありがとうございます!」
2人を見送りしばらく廊下を歩いていると離れの様に建てられている道場が窓から見えた。
「ここが客間」
「何処も彼処もすげぇ、」
「思った以上の軟弱野郎だな」
お?なんだ?誰の声?
急に視界が回って、え?
気付くと俺は俯せに倒されていた。
何!?何なんだ一体!!全く力入んねぇんだけど!それでも初対面の人には挨拶だよな!?
「エエエレン・イェーガーですよろしくお願いしあだだだだ!!」
「リヴァイ・ローゼンハイム。名前くらいは教えてやる」
「お兄ちゃん離して!」
「命拾いしたな。おい、今すぐコイツと別れろ」
「た…助かった…!え!?」
「なんでよ!」
「テメェ、関節へし折られるのと関節へし折られるのどっちが良いか選べ」
「ヒィィ!選択肢が理不尽!!」
「だったらこうすればいい」
今度は何ですか泣いていいですか?
お兄さんの拘束から逃れ立ち上がった瞬間、壁に矢が音もなく突き刺さる。後少しズレていたら顔面ごとぶち抜かれていた。
「ぎゃー!!怖いレイ助けて!」
「今のはお遊び、次は眉間」
「ミカサ!」
殺気丸出しの袴少女が弓を思いっ切り俺の方へ構えて、って呑気に説明してる場合じゃねぇ殺される…!!
「変態を野放しには出来ない」
「変態!?」
「黙って変態」
「理不尽!」
「違うってば!」
「レイはそう言ってるが?」
「神に誓って変態ではありません!!」
「とにかく2人はお爺ちゃん達と昼食べてて!向こういるから!」
「…チッ、可愛い妹に頼まれたからには断れねぇな」
「……お姉ちゃんにいかがわしいことしたらソレ、使い物にならなくしてやるから」
「は、はい…!」
物凄くヒュンってなった。
*
「やぁよく来たねエレン」
客間は高級老舗旅館みたいな部屋だった。お爺ちゃんとお兄さん2人、妹1人に会ったからつまり…この人がレイのお父さん。ピシッとスーツではなく道着を着ている。
「初めまして!」
「父のエルヴィン・ローゼンハイムだ」
「どうもいだだだだだ!!おかしい力強過ぎじゃないですか!!?」
「ハハハ、そうかな?」
「お父さん力強いとこあるから、大丈夫?」
ごめん全然大丈夫じゃない。
「どうぞ座って」
「し、失礼します!」
ふかふかな椅子に座るとタイミング良くハンジお爺ちゃんがお茶とお菓子を運んで来てくれた。てかこのお菓子俺が好きなヤツ!とは言えないので堪えた。一息つくとお父さんが口を開く。
「2人は…付き合ってるとか?」
「エレンは家事も料理も何でも出来るの!可愛いモノが好きでね、だって見た目も可愛いでしょ?」
「や、やめろって恥ずかしいだろ…!」
「エレン」
「は、はい!」
おっと次は喉元に刀ですかへぇ刀…刀ー!!!
「ギャアァアァ!!」
「首を跳ねられるのと首を跳ねられるのどちらがいいかな?選ばせてあげよう」
「だから選択肢理不尽ー!!」
「お父さん!」
「ふふ、挨拶もこれくらいによろしく頼むよ」
「はいぃぃぃ…!」
我々家族は君を歓迎するからね、いつでも遊びに来なさい。こんな台詞を満面の笑みで言われたのは初めてだった。ジャン、本当に家族全員ゴルゴだったわ。
*
玄関の引戸が閉まる。
5人の家族に見送られ、エレンは途中まで送ると言ったレイと一緒に帰っていった。
「いい子だったね」
「あぁ」
「これから楽しくなるよ」
「エルヴィン?」
「レイを守れるのは俺達だけだ」
「シスコン」
「何とでも言えデカヒゲ、シスコンの何が悪い」
「そうだったな、悪かった」
「お姉ちゃんが可愛くないの?」
「お前まで何を言い出すんだ」
とりあえず生きて帰れることが出来たエレンであった。